・・・その上に自然に生える烏瓜も搦んで、ほとんど隙間のないくらいに色々の葉が密生する。朝戸をあけると赤、紺、水色、柿色さまざまの朝顔が咲き揃っているのはかなり美しい。夕方が来ると烏瓜の煙のような淡い花が繁みの中から覗いているのを蛾がせせりに来る。・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・どうかすると細かく密生した苗床を草履か何かですりつぶしたりする。すっかり失敗した翌年は特別な花壇を作る代わりにところどころ雑草の間の気のつきにくそうな所へ種をまいたり苗を植えたりしてみたがやはりだめであった。だれとも知れぬ侵入者は驚くべき鋭・・・ 寺田寅彦 「路傍の草」
・・・吊橋にこんもりかぶさって密生している椎の梢の上に黒い深夜の空があり、黒が温泉場らしく和んだ大気に燦いているのが雨戸越しにも感じられる。除夜の鐘も鳴らない大晦日の晩が、ひっそりと正月に辷り込んだ。 三ガ日の繁忙をさけて来ている浴客だが・・・ 宮本百合子 「山峡新春」
・・・ 片側には仏具を商う店舗、右は寺々の高い石垣、その石垣を覆うて一面こまかい蔦が密生している。狭い特色ある裏町をずっと興福寺の方へ行って見た。もう夕頃で、どの寺の門扉も鎖されている。ところどころ、左右から相逼る寺領の白い築地の間に、やっと・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
晴○しっかりした面白味のある幹に密生して いかにも勁そうな細かい銀杏の若葉。○その窓からはいろいろな色と形との新緑の梢が見わたせた。 その奥で普請がやられている 金づちの音や木をひく音は朝から夕・・・ 宮本百合子 「窓からの風景(六月――)」
出典:青空文庫