・・・ ベルリンの下宿はノーレンドルフの辻に近いガイスベルク街にあって、年老いた主婦は陸軍将官の未亡人であった。ひどくいばったばあさんであったがコーヒーはよいコーヒーをのませてくれた。ここの二階で毎朝寝巻のままで窓前にそびゆるガスアンシュタル・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・すなわち外戚祖父とその兄弟は工兵士官であり、また外戚祖母の先祖にも優れた砲工兵の将官が居た。また祖母 Lady FItzgerald は有名なボイルの兄弟の裔だそである。 一八四二年の十一月十二日に John Willam を生んだとき・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・一方に、大小の戦争犯罪人としての将官が、リストされている。しかし、兵と共に飢えて死んだという将校が、何人私たちに知られているであろうか。私たちは、沁々とこのことを思い返さざるを得ない。自分たちだけは、様々の軍事上の名目を発明して、数の少い軍・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・前の人は革命前の軍人であって、何か将官だった人だそうです。つまりその人と離婚したとき、女の子供と男の子供がいたので、子供たちをどっちで育てるか協議したわけですが、男の子は僕はお母さんと暮したいといい、女の子は私はお父さんと暮したいといったの・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・ ◎標準時計 絶対に狂わず正確なもの と云う それを或日本の海軍将官が英国で買った。六年の間に一分進んだばかりなので、この次英国に行った時、店に行ってほめた。そしたら、六年の間に 例え 一分でも進むようなことがあ・・・ 宮本百合子 「一九二三年夏」
・・・爽やかな白いテーブルクロスの間を白い夏服の将官たちが入口から流れ込んで来た。梶は、敗戦の将たちの灯火を受けた胸の流れが、漣のような忙しい白さで着席していく姿と、自分の横の芝生にいま寝そべって、半身を捻じ曲げたまま灯の中をさし覗いている栖方を・・・ 横光利一 「微笑」
出典:青空文庫