・・・けれども猫を捨てる海岸の場面、駅前の小料理屋の場面などで、妻の顔は言葉を失ってどちらかというとただの女の顔になってしまっている。そしてこの場面こそ心理的には全篇の中の一番緊張した部分であった。 ある外国人が書いているものの中で日本の民衆・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
・・・小さい離れが小料理やの裏にあり、私がもと仕事部屋にしていたところ。半年ほど東京と半々に暮すそうです。太郎は相変らず。 私の仕事はプランが大きいので手間がかかりました。そろそろかきはじめます。自分で何だかこれまでとは違う心持が内部にしてい・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ほら、いつぞや、若竹をたべた日本橋の小料理や、あすこの持家で、気に入るかどうか、屋根は茅です。」そして、その辺の地理の説明がこまかに書かれていた。鎌倉といっても大船駅で降り、二十何町か入った山よりのところ、柳やという旅籠屋があって風呂と食事・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・家の風呂はポンプがこわれて駄目だから、夕方になると、円覚寺前の小料理やのようなところへ風呂と食事に出かけたりした。変な、構わない恰好をして行く途中踏切を横切る。よく東京から来た汽車に出会い、畑の中に佇み百姓娘のように通過する都会的窓々を見上・・・ 宮本百合子 「夏」
・・・ 宿元は小倉に近い処にあるが、兄が博多で小料理屋をしている。飯焚なんぞをするより、酌でもしてくれれば、嫁入支度位は直ぐ出来るようにして遣ると、兄が勧めたので、暫く博多に行っていたが、そこへ来る客というのが、皆マドロスばかりで、ひどく乱暴・・・ 森鴎外 「独身」
出典:青空文庫