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・・・惣治は一本一本床の間の釘へかけて、価額表の小本と照し合わせていちいち説明して聴かせた。「この周文の山水というのは、こいつは怪しいものだ。これがまた真物だったら一本で二千円もするんだが、これは叔父さんさえそう言っていたほどだからむろんだめ・・・
葛西善蔵
「贋物」
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・・・ 手あたり次第に小説をあさってよんで居たお龍は末喜を書いた小本を見つけた。さし絵にはまばゆいほど宝石をちりばめた冠をかぶって、しなやかな体を楼の欄にもたせてまっかな血を流して生と死との間にもがき苦しんで居る男をつめたく笑って見て居るとこ・・・
宮本百合子
「お女郎蜘蛛」