・・・けれども、社会のはげしく移り変る世相そのものをただ追っかけて、漁って、ちょっと珍しい局面を描き出したとして、それはたしかにそういうこともあり、そうでもあるかもしれないけれど、往来に向ってとりつけられたショーウィンドが、何でもただ映すのとどれ・・・ 宮本百合子 「文学と生活」
・・・地方生活からの題材の特異性が、別の意味での素材主義に陥ることをふせぐのは、歴史の全体からその局面の特殊性がつかまれてこそ可能だろう。地方的なテムペラメントというものが旧来ローカル・カラアと呼ばれた以上の意味をもって文学に活かされる健全な可能・・・ 宮本百合子 「文学と地方性」
・・・ プロレタリア文学の擡頭は、日本の文学に新しい局面を開き、新たな芸術の価値と質的展開の可能を示したのであったが、一九三二年以後の日本の社会事情は、最も瞠目的な方法と過程で、その退潮を余儀なくさせた。作家として、自己の帰趨に迷ったブル・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・このような作品は日本の労働者階級の文学に新しい局面をひらいているということはたしかだと思います。ブルジョア文学が横光利一の「旅愁」のように、ヨーロッパをブルジョア民族主義の立場から書いた作品が広汎によまれている日本で、「道標」をふくむ一連の・・・ 宮本百合子 「文学について」
・・・が更に発展し高度になっている現代の局面をバックは内面からとらえた。そして非常に心をひかれる点は、この「山の英雄」のもっている作品として体質がいかにもバックのアメリカの婦人であることを思わせる量感に溢れていることである。「母の肖像」もそのこと・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・刻々の歴史に対する客観的な眼力を喪えば、文学上のディフォーメイションはディフォームした人生の局面の屈伏した使用人ともなるのであると思う。〔一九四〇年五月〕 宮本百合子 「文学のディフォーメイションに就て」
・・・一口に云って、従来の作品より規模の大きな、感情に於ても局面においても人生のより深いところに触れた、度胸の坐った作品が求められているのである。 ところが、月々現われる作品の現実に即して見ると、そういう一般の要求を直接反映している作品という・・・ 宮本百合子 「文学の流れ」
・・・そして、その作品にあらわれる主人公たちがそれぞれ多数のものの集約的な人格化であり、歴史の局面へ積極的に働きかけようとする時代の典型であるという文学の世界の現実で、広汎な読者の生活に結ばれてゆくものであろうとした。 この文学の動きの方向で・・・ 宮本百合子 「平坦ならぬ道」
・・・しかし、一人の人としてのうまみというようなものが、多難多岐な客観的局面をどう展開させ得るだろうか。二つのことは常に必ずしも一致し得ないことを、過去の歴史も多くの実例で語っている。 桜内蔵相の答えかたには、首相とまるでちがう一種の話術のよ・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・西洋の女のひとは、見つくろって下さい、という感情を人生のいろんな局面でずっと少ししか持っていないような生活の姿である。 この頃は不思議な世の中で、本屋が見つくろいの注文を受けた話をまたぎきした。或る本屋へ電話で、もしもしこちらはどこそこ・・・ 宮本百合子 「見つくろい」
出典:青空文庫