・・・これが無礼と見られ遂に権兵衛は縛り首にされ、一族は山崎の屋敷で悲惨な最期をとげてしまった。 武家時代の社会で君臣という動かしがたい社会の枠の中に、このようになまなまと恐ろしい人間性格の相剋が現実すること、そして、その相剋する力がその枠を・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・近く山崎さんの伯父上[自注9]が御出京になり、あなたにもお会いになりたいそうです。 ところで、この手紙はきっと私がお目にかかる時分にやっと着くのでしょうが、シャツその他の衣類、フトンなどの工合はいかがでしょうかしら。間に合って居りましょ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 桃色と赤のスイートピー ◎銀座の六月初旬の夜、九時すぎ ◎山崎の鈍く光る大硝子飾窓 ◎夕刊の鈴の音、 ◎古本ややさらさの布売の間にぼんやり香水の小さい商品をならべて居る大きな赧髭のロシア人 ◎気がつ・・・ 宮本百合子 「一九二三年夏」
地震前、カフェイ・ライオンの向う側に、山崎の大飾窓が陰気に鏡面を閃かせていた頃のことだ。 私はよく独りで銀座を散歩した。 尾張町の四つ角で電車を降り、大抵の時交番の側を竹川町の停留場まで行き、そこから反対側に車道を・・・ 宮本百合子 「粗末な花束」
・・・僅かに柄沢とし子山崎道子が現実の勤労生活に結びついている位である。 私たちは、今回の教訓から非常に多くのことを学ばなければならない。まだまだ日本の民主化と婦人の幸福には遠い総選挙であることを知り、しっかりと代議士の活動を監視し、次のより・・・ 宮本百合子 「春遠し」
・・・名は雛勇本名は山崎のお妙チャンと云う子だった。純京都式の眉のまんまるくすりつけてあるひたえのせまい、髪の濃い口のショッピリとした女だった。私はおたえちゃんと呼んで見たりうろ覚えに「雛勇はん」と呼んであとで笑ったりして居た。「お百合ちゃん」私・・・ 宮本百合子 「ひな勇はん」
・・・ 弥一右衛門はその日詰所を引くと、急使をもって別家している弟二人を山崎の邸に呼び寄せた。居間と客間との間の建具をはずさせ、嫡子権兵衛、二男弥五兵衛、つぎにまだ前髪のある五男七之丞の三人をそばにおらせて、主人は威儀を正して待ち受けている。・・・ 森鴎外 「阿部一族」
出典:青空文庫