・・・ 紅葉する木立もなしに山深し 千里の山嶺を攀じ幾片の白雲を踏み砕きて上り着きたる山の頂に鏡を磨ぎ出だせる芦の湖を見そめし時の心ひろさよ。あまりの絶景に恍惚として立ちも得さらず木のくいぜに坐してつくづくと見れば山更にしんしんとして・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・あすこには、雪のきらめく山嶺とそこに孤独であってはじめて確保された唯心的で超歴史的な恍惚があります。「運河」「畳」「家」これらは、これらとして独自の断面から、日本の人民の生きかたについてを思わせます。「鉛筆詩抄」にあるどの詩も、その詩として・・・ 宮本百合子 「鉛筆の詩人へ」
・・・ ○寒い日当りのよいところがよい ○夜のうちに凍らす ○甲府 ○兀突と結晶体のような山骨 ○山麓のスロープから盆地に向って沢山ある低い人家 ○山嶺から滝なだれに氷河のような雪溪がながれ下って居る。・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
出典:青空文庫