・・・現実がその妄想を打破った幻滅の心を、自力で整理するだけの自主的な「考える力」を必死に否定してあらゆる矛盾した外部の状況に受身に、無判断に盲従することを「民心一致」と強調した責任は、どこにあっただろうか。馬一匹よりもやすいものと命ぐるみ片ぱし・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・、女性の一人として同性の裡に入っていると、自分達の特性に対して馴れ切って無自覚に成りがちであると一緒に、却って欠点が互に目に付くと云うような諸点から、今まで自分にとって女性の生活は、事実上、常に一種の幻滅を感じさせていた。 かくあるべき・・・ 宮本百合子 「概念と心其もの」
・・・もののように思いこまされている共産党をさけ、同時に従来の特権勢力の溜りである自由党もさけて、せめても、を心だのみに投票して政権を与えた日本社会党は、あのような醜状をさらして、どんなおとなしい人の心にも幻滅を与えた。そのような日本の民主化の、・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ 文学を愛し、文学をつくる人になる前に生活の必要と文学愛好の心からジャーナリズム関係に入る若い人は、みんな大抵幻滅を経験する。バルザックの「幻滅」とはちがった意味で。遠くから見て敬意を抱いていた芸術家たちが、ジャーナリストとして接触して・・・ 宮本百合子 「豪華版」
・・・ ジイドは、ソヴェトに対して抱いていた自分の信頼、称讚、喜悦をかくも深刻に痛ましく幻滅の悲哀に陥れ、労働者を欺いている者はソヴェトの一部の特権者と無能な国内・国外の阿諛者達であるとしている。「勝負はスターリンにしてやられ」民衆は悉く・・・ 宮本百合子 「こわれた鏡」
・・・ 嘘偽でかためた報道、虚構の現実ばかりを知らされ、今日はそれが虚構であった、ということだけを又手おくれに知らされて経済破局に面している日本の人々が、己れの幻滅につながるものとして、この真実のよりどころを殺戮されて還って来た兵士の精神の苦・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・が、又このよき場所であるが故に、一層俗悪に見えるその黄金が、何と云う幻滅を感じさせますでしょう。純白な面に灼熱した炬火を捧げて、漂々たる河面から湧き上った自由の女神像こそ、その心持につり合って居りますでしょう。 それだのに、何故、私たち・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・日本の作家がそれを見て幻滅した。然し私は知らない。自分で見ないうちは知らない。彼女がどんな彼女であるか。チェホフは人間の見えない三文文士ではなかった。 私を忘れないでお呉れ、もっと度々私に手紙をおくれ。私のことを思ってお呉れ。どんなこと・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・の法によって制せられ、幻滅を感じるが如何うにかして新生活を開拓しようと努めた跡が、ありありと見える。このむきな人々が、僅か三四十年の間に、何と云う悧巧に、円滑になったことだろう。彼等が余り速に、賢く打算にぬけめなく立ち廻るようになったことは・・・ 宮本百合子 「蠹魚」
・・・それとも、職業もない、空腹がある、そして幻滅が大きい。せめては、こんな気分でも、と、輸入映画のひもじい複製でなぐさめているのであろうか。 私たちが今日を生きている感情は非常に複雑である。混乱も幻滅も空腹は勿論、一時的な希望の喪失さえある・・・ 宮本百合子 「商売は道によってかしこし」
出典:青空文庫