・・・ 刺繍をした黒天鵞絨の着物などを見ましたが、これは作り上げるのに幾年もかかるので、オタカラと云って大事にしています。 アイヌ婦人は柔順で人に話しかけられても、じっと俯きながら聞かれただけの事を返事する位であります。其の風俗も今日では・・・ 宮本百合子 「親しく見聞したアイヌの生活」
・・・いわばあてのない人をそうして幾年も待っていても、と周囲がとやかく云いだして来ている。娘さんとしてはそれらの言葉に動かされる心持がない。母としての櫛田さんは、ぐるりの人々の親切から出る忠告をやわらかくうけながら、娘さんの一途な心をいじらしく思・・・ 宮本百合子 「その人の四年間」
・・・そして、このごろのように幾年ぶりかで国の内外の往来が恢復しはじめると、ユネスコの問題にしろ国際的だし、アメリカへの留学生の出発も国際的な一つのできごとだし、織姫渡米も国際的な現象の一つとなった。 それにつけても、わたしたち日本の婦人は、・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・ 願い事――ほんとにそれは幾年も幾年も前から同じ願い事ばかりこの男は持って居た。小作男の願事と云えば云わずと知れた、米をまけて呉れである。 此男は、いつもいつもその願い事をもって袷時分にはきっと来、来るたんびに皆に嫌われながらも自分・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 家兄の許を離れ、自己の生活を営んで幾年か経つ間には、何時か、自分達の希望が遂げられる機会もあろうと云うのが、勿論、彼女にとっては唯一つの光明であったのです。 処が、先方の男子は、四五年経つうちに、何か家庭の事情と云う口実で、突然、・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・「私ね、幾年も幾年も一つ家に暮して居たくないんですよ、毎日毎日どっか違ったとこにすまって、まるで違ったものを食って居たいんだが……」「そうなさいな、いくらだって出来るじゃありませんか、女と違って男ですもの、そんな事は勝手じゃありませ・・・ 宮本百合子 「芽生」
一 講和近づけりという噂がある。しかし戦争はまだやむまい。ばかばかしい話だが、英独両国で面目をつぶすのをイヤがっている間は、とうてい仲なおりはできぬ。 戦争はまだ幾年も続くだろう。そうして結局、各国ともに、社会的不安と政治的・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
出典:青空文庫