石川達三氏の「結婚の生態」という小説について、これまで文学作品として正面からとりあげた書評は見当らなかった。それにもかかわらず、この本は大変広汎に読まれている本の一つである。大変ひろく読まれながら、その読後の感想というもの・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・ ウォーレスは、保守勢力がその意外におどろいたほど広範な層の同感を集めた。在米の日本人二世の間にも進歩党支部がつくられはじめた。その看板をかかげず、投票権はもたないけれど平和と民主を愛する世界各国の人々の心の一隅に進歩党の支部はその場所・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・十九世紀は、その興隆する資本主義社会の可能性で、偉大な人間才能を開花させたのであったが、いまやそろそろ地球をみたす人間社会により広汎な人間性を解放する民主の形態が出来て、新しい世紀の本質的に一歩発展し前進した精華が輝きだそうとしている。真に・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・太宰治は、現代の広汎な読者の心理に影響をもっているから、簡単にやっつけてはいけないというような理由で、民主的評論家の発言がひかえられた。 考えてみれば、これほど妙なことはないわけだった。大衆の心理に――理性でもなければ、歴史的認識でもな・・・ 宮本百合子 「現代文学の広場」
・・・従って文芸批評でもプロレタリア文芸批評が、もっと広汎に研究され、活溌に行われなければならないのだと思う。 真実に強い文化的基準と新しく見なおした目標で批評がされるようになれば月評は別ものになる。 では、そのプロレタリア文学批評と・・・ 宮本百合子 「こういう月評が欲しい」
・・・ 福田恆存にとっては、中国の人民が革命に勝利したこともどこまでがほんとかわからないことであったし、日本の国内で、日本の学者たち二十七名が非日委員会に反対の声明を行い、ひきつづき広汎な層をふくむ学者、有識人の全国的な「平和を守る会」を組織・・・ 宮本百合子 「五月のことば」
・・・特に農村では大衆の文化初等教育が、広汎に要求されている。 大衆の初等教育というのは、文盲打破にはじまって、彼等を楽しませながら教育する文学作品に対する活溌な受容力と批判力の養成を含むものではないであろうか。恐らく生れつき彼自身がひどく文・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ 作家同盟婦人委員会が、プロレタリア文学における婦人の広汎な積極的な活動は真に階級的な文化闘争の一翼として、どれほど重大な意味をもつものであるか、各支部はこの分野の活動を直ちにとりあげるべきであることをいち早く各支部に徹底させることを遅・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・これは日本の神社のうちでも最も有名なものの一つである熊野権現の縁起物語であるから、その流布の範囲はかなり広汎であったと考えなくてはならない。ところでそこに語られているのは、熊野に今祀られている神々が、もとインドにおいてどういう経歴を経て来た・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・すなわち享楽人はその享楽において広汎かつ強大な能力を持たなくてはならぬ。 享楽の対象は自然と人生の一切である。従って享楽はどの隅にもあり得る。しかし我々は金をためること、肉欲にふけることを無上の悦楽とする「高利貸的人間」が、広汎な享楽の・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
出典:青空文庫