・・・それを調べた上で、もし出来るならば、世界中の人間がことごとく盲あるいは聾であったとしたらこれらの人間の建設した科学は吾々の科学とどうちがうか、という問題を考えてみたいと思っている。そういうわけで盲人や聾者の心理というものに多大な興味を感ずる・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・たとえば古来の数学者が建設した幾多の数理的の系統はその整合の美においておそらくあらゆる人間の製作物中の最も壮麗なものであろう。物理化学の諸般の方則はもちろん、生物現象中に発見される調和的普遍的の事実にも、単に理性の満足以外に吾人の美感を刺激・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・それ以来新しくこの都に建設せられた新しい文明は、汽車と電車と製造揚を造った代り、建築と称する大なる国民的芸術を全く滅してしまった。そして一刻一刻、時間の進むごとに、われらの祖国をしてアングロサキソン人種の殖民地であるような外観を呈せしめる。・・・ 永井荷風 「霊廟」
・・・ これらの弊害を別にしても、文芸院の建設は依然として文芸の発達上効力がある、即ちある種類の好い作物は出るに違ないと主張する人があるかも知れない。余はそういう人に向って、たとい日本に文芸院がなくっても好い作物は出るのだといいたい。かつて文・・・ 夏目漱石 「文芸委員は何をするか」
・・・ 私はそれから文芸に対する自己の立脚地を堅めるため、堅めるというより新らしく建設するために、文芸とは全く縁のない書物を読み始めました。一口でいうと、自己本位という四字をようやく考えて、その自己本位を立証するために、科学的な研究やら哲学的・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・嬉々とした人生の建設のために構図し、労作する、その高き旗じるしとして、婦人の大集団の上に、勇敢に、はためかなければならないのである。〔一九四六年四月〕 宮本百合子 「合図の旗」
・・・これは党員ではないが、ソヴェト同盟がプロレタリア・農民の国であり、社会主義の社会を建設してゆき、益々富み、階級のない社会とするためには、どういう風に働かなければならないかということを理解し、実践する婦人労働者を皆が選んで、職場でのあらゆるこ・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・ 自然主義の小説というものの内容で、人の目に附いたのは、あらゆる因襲が消極的に否定せられて、積極的には何の建設せられる所もない事であった。この思想の方嚮を一口に言えば、懐疑が修行で、虚無が成道である。この方嚮から見ると、少しでも積極的な・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・彼は応仁乱後数年まで生きていたのであり、『樵談治要』なども乱後に書いたものであるが、しかし彼が新しい時代に対して抱いたのはただ恐怖のみであって、新しい建設への見通しでもなければ、新しい指導的精神の思索でもなかった。『樵談治要』のなかに彼は「・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・往来から夜の空の見える具合がそういう連想を呼び起こしたのかと思われるが、その時には新しく建設せられる東京がいかにも植民地的であるのを情けなく思った。しかしその後二年もたつとシンガポールの場末という感じはなくなった。おいおい高層建築が立ち並ぶ・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫