・・・若人はたすきりりしくあやどりて踊り屋台を引けば上にはまだうら若き里のおとめの舞いつ踊りつ扇などひらめかす手の黒きは日頃田草を取り稲を刈るわざの名残にやといとおしく覚ゆ。 刈稲もふじも一つに日暮れけり 韮山をかなたとばかり晩靄の間・・・ 正岡子規 「旅の旅の旅」
・・・ そこの学校を出て私が他処の学校へ通う様になってもM子の引けの後い日にはわざわざまわって行って一緒に帰った。 M子が学校を出て仕舞ってから一年に一度も会わない時もあったしその間手紙の一本もやり取りしなかった時さえ有ったけれ共その次会・・・ 宮本百合子 「M子」
・・・ 後へ引けないことになって結婚、大森にいい家が出来、百五十円ずつ仕送りして、大学か何かへ行って居るんですが、一向それで満足もして居ないんですな、 一つ心配なことがある、 何だ もうじき試験になるんだが、それだけはどうしても通・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・ * それで恋愛の表現等でも、パリとモスクワと違うところは、例えばパリは引け時間、地下電車の入口に立って見て居ると、女が先に来て改札口で待って居る。すると若い男が来る。互に抱き合って長い間接吻して、女と男と別・・・ 宮本百合子 「ソヴェトに於ける「恋愛の自由」に就て」
・・・ それで恋愛の表現等でも、パリとモスクワと違うところは、例えばパリは引け時間、地下電車の入口に立って見ていると、女が先に来て改札口で待っている。すると若い男が来る。互いに抱き合って長い間接吻して、女と男と別々の方へ別れて行く、そういう表・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・ そんな立派な家へ、何も知らない自分が出かけて行くのは気も引けたし、何かやるやると云われるのにも当惑した。「俺らほんにはあお使えいただいただけで、結構でござりやす…… 何もそげえに…… そんに決して俺らの力ばっかじゃあござり・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・不安が募るにつれ、非常警報器を引けと云う者まで出た。駅の構内に入る為めに、列車が暫く野っぱの真中で徐行し始めた時には、乗客は殆ど総立ちになった。何か異様が起った。今こそ危いと云う感が一同の胸を貫き、じっと場席にいたたまれなくさせたのだ。・・・ 宮本百合子 「私の覚え書」
・・・ところが午後引けて帰って見ると、牝鶏が二羽になっている。婆あさんに問えば、別当が自分のを一羽いっしょに飼わせて貰いたいと云ったということである。石田は嫌な顔をしたが、咎めもしなかった。二三日立つうちに、又牝鶏が一羽殖えて雄鶏共に四羽になった・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫