・・・ 近ごろ見た書物に、蜜蜂が花野の中で、つぼみと、咲いた花とを識別するのは、彼らにものの形状を弁別する能力のあるためだということが書いてあった。すなわち星形や十字形のものと、円形のものとを見分けることができるというのである。 しかし甘・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・その痕跡が膜の焼けた線になって残るのであるが、その線の形状がやはり上記のものと似た形を示している。それからまたガラス窓などに水蒸気が凝結して露を結んでいるのが、だんだん露の生長するにつれてガラス面に沿うて落下し始める。その際に露の流れが次第・・・ 寺田寅彦 「物理学圏外の物理的現象」
・・・弾条に限らずすべての弾性体の形状大小についても全く同様である。従って一つの針金の長さなどという言葉自身が既に無意味ではないまでも漠然たるものになりはしまいか。この曖昧さ加減を最も明らかに吾人に示すのは綿糸の撚り糸である。一条の撚り糸を与えら・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・たとえば、硯と墨とか坊主と袈裟とか坊主と章魚とかいうように並用共存の習慣あるいは形状性能の類似等から来るものもあり、あるいは貧と富、紅と緑のような対照反立の関係から来るものもある。しかしこれらはかなりまですべての人間に共通普遍なもので、従っ・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・一つは物の大小形状及びその色合などについて知覚が明暸になりますのと、この明暸になったものを、精細に写し出す事が巧者にかつ迅速にできる事だと信じます。二はこれを描き出すに当って使用する線及び点が、描き出される物の形状や色合とは比較的独立して、・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・その枝が聚まって、中が膨れ、上が尖がって欄干の擬宝珠か、筆の穂の水を含んだ形状をする。枝の悉くは丸い黄な葉を以て隙間なきまでに綴られているから、枝の重なる筆の穂は色の変る、面長な葡萄の珠で、穂の重なる林の態は葡萄の房の累々と連なる趣きがある・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・並び聳ゆる櫓には丸きもの角張りたるものいろいろの形状はあるが、いずれも陰気な灰色をして前世紀の紀念を永劫に伝えんと誓えるごとく見える。九段の遊就館を石で造って二三十並べてそうしてそれを虫眼鏡で覗いたらあるいはこの「塔」に似たものは出来上りは・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・某の事物には各其特有の形状備りあれば、某の意も之が為に隠蔽せらるる所ありて明白に見われがたし。之を譬うるに張三も人なり、李四も亦人なり。人に二なければ差別あるべき筈なし。然るに此二人のものを見て我感ずる所に差別あるは何ぞや。人の意尽く張三に・・・ 二葉亭四迷 「小説総論」
・・・歯の形状から見てもわかる。草食獣にある臼歯もあれば肉食類の犬歯もある。混食をしているのが人類には一番自然である。そう出来てるのだから仕方ない。それをどう斯う云うのは恩恵深き自然に対して正しく叛旗をひるがえすものである。よしたまえ、ビジテリア・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
出典:青空文庫