・・・「おや、御馳走様ねえ。」 三之助はぐッと呑んで、「ああ号外、」と、きょとりとする。 女房は濡れた手をふらりとさして、すッと立った。「三ちゃん。」「うむ、」「お前さん、その三尺は、大層色気があるけれど、余りよれよれ・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・「どういたして、……まことに御馳走様。……番頭さんですか。」「いえ、当家の料理人にございますが、至って不束でございまして。……それに、かような山家辺鄙で、一向お口に合いますものもございませんで。」「とんでもないこと。」「つき・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・「おや、御馳走様! どこかのお惚気なんだね」「そうおい、逸らかしちゃいけねえ。俺は真剣事でお光さんに言ってるんだぜ」「私に言ってるのならお生憎様。そりゃお酒を飲んだら赤くはなろうけど、端唄を転がすなんて、そんな意気な真似はお光さ・・・ 小栗風葉 「深川女房」
・・・女中なら「御馳走様」位でお止になるところが、お正は本気で聞いている、大友は無論真剣に話している。「それほどまでに二人が艱難辛苦してやッと結婚して、一緒になったかと思うと間もなく、ポカンと僕を捨てて逃げ出して了ったのです」「まア痛いこ・・・ 国木田独歩 「恋を恋する人」
・・・自分をちょっと尻目にかけ、「御馳走様」とお光が運ぶ鮨の大皿を見ながら、ひょろついて尻餅をついて、長火鉢の横にぶっ坐った。「おやまあ可いお色ですこと」と母は今自分を睨みつけていた眼に媚を浮べて「何処で」「ハッハッ……それは軍事上の・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
出典:青空文庫