・・・……… 露柴はさも邪魔そうに、時々外套の袖をはねながら、快活に我々と話し続けた。如丹は静かに笑い笑い、話の相槌を打っていた。その内に我々はいつのまにか、河岸の取つきへ来てしまった。このまま河岸を出抜けるのはみんな妙に物足りなかった。する・・・ 芥川竜之介 「魚河岸」
・・・神父は胸を反らせながら、快活に女へ話しかけた。「御安心なさい。病もたいていわかっています。お子さんの命は預りました。とにかく出来るだけのことはして見ましょう。もしまた人力に及ばなければ、……」 女は穏かに言葉を挟んだ。「いえ、あ・・・ 芥川竜之介 「おしの」
・・・しかしそれだといって少しも快活ではなかった。自分の後継者であるべきものに対してなんとなく心置きのあるような風を見せて、たとえば懲しめのためにひどい小言を与えたあとのような気まずい沈黙を送ってよこした。まともに彼の顔を見ようとはしなかった。こ・・・ 有島武郎 「親子」
・・・やがてポルタ・カプチイニの方にかすかな東明の光が漏れたと思うと、救世主のエルサレム入城を記念する寺の鐘が一時に鳴り出した。快活な同じ鐘の音は、麓の町からも聞こえて来た、牡鶏が村から村に時鳴を啼き交すように。 今日こそは出家して基督に嫁ぐ・・・ 有島武郎 「クララの出家」
・・・ 省作が片肌脱いで勢いよく鎌をとぎ始めれば、兄夫婦の顔にもはやむずかしいところは少しもなくなって、快活な話が出てくる。母までが端近に出て来てみんなの話にばつを合わせる。省作がよく働きさえすれば母は家のものに肩身が広くいつでも愉快なのだ。・・・ 伊藤左千夫 「隣の嫁」
・・・背の低い顔の丸い中太りの快活で物の解った人といわれてる。それで斎藤の一条以来、土屋の家では、例の親父が怒って怒って始末におえぬということを聞いて、どうにか話をしてやりたく思ってるものの、おとよの一身に関することは、世間晴れての話でないから、・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・ 優美よりは快活、柔順よりは才発、家事よりは社交、手芸よりは学術というが女に対する渠の註文であった。この方針から在来の女大学的主義を排して高等学術を授け、外国語を重要課目として旁ら洋楽及び舞踏を教え、直轄女学校の学生には洋装せしめ、高等・・・ 内田魯庵 「四十年前」
デパートの内部は、いつも春のようでした。そこには、いろいろの香りがあり、いい音色がきかれ、そして、らんの花など咲いていたからです。 いつも快活で、そして、また独りぼっちに自分を感じた年子は、しばらく、柔らかな腰掛けにからだを投げて・・・ 小川未明 「青い星の国へ」
・・・ 彼女にくらべて、友だちの娘は、平常、はすっぱといわれるほどの、快活の性質でありましたから、これをきくと、すぐに、「私が、お約束をいたします。勇ましい、遠い船出から、あなたのお帰りなさる日を、氏神にご無事を祈って、お待ちしています。・・・ 小川未明 「海のまぼろし」
・・・ それは実に明るい、快活な、生き生きした海なんだ。未だかつて疲労にも憂愁にも汚されたことのない純粋に明色の海なんだ。遊覧客や病人の眼に触れ過ぎて甘ったるいポートワインのようになってしまった海ではない。酢っぱくって渋くって泡の立つ葡萄酒の・・・ 梶井基次郎 「海 断片」
出典:青空文庫