・・・こんなにいろはさまざまだがそれはみんなある同じ性質をもっている。さっき云ったいつでも動いているということもそうだ。それは火というものは軽いものでいつでも騰ろう騰ろうとしている。それからそれは明るいものだ。硫黄のようなお日さまの光の中ではよく・・・ 宮沢賢治 「学者アラムハラドの見た着物」
・・・あの作品の性質としてゆるがせにされないこういう箇処が割合粗末であった。おふみと芳太郎とは、漠然と瞬間、全く偶然にチラリと目を合わすきりで、それは製作者の表現のプランの上に全然とりあげられていなかったのである。後味の深さ、浅さは、かなりこうい・・・ 宮本百合子 「「愛怨峡」における映画的表現の問題」
・・・木村と往来しているある青年文士は、「どうも先生には現代人の大事な性質が闕けています、それは nervosit です」と云った。しかし木村は格別それを不幸にも感じていないらしい。 夕立のあとはまた小降になって余り涼しくもならない。 十・・・ 森鴎外 「あそび」
・・・人間を長い間その中に据わらせておいて、悪い性質を抜け出させるのである。 ツァウォツキイはだんだん光線に慣れて来て、自分の体の中が次第に浄くなるように感じた。心の臓も浄くなったので、いろんな事を思い出して、そして生れたと云うばかりで、男の・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「破落戸の昇天」
・・・ 話の間だがちょッとここで忍藻の性質や身の上がやや詳細に述べられなくてはならない。実に忍藻はこの老女の実子で、父親は秩父民部とて前回武蔵野を旅行していた旅人の中の年を取った方だ。そして旅人の若い方はすなわち世良田三郎で、母親の話でも大抵・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・ただ一番困難なことを私はやりたくてならぬ性質なのである。 もちろん、身辺小説も困難なことにおいてはそう違わないと思うが、人それぞれの性質によって困難の対象は違うものとしなければならぬなら、私にとっての困難はやはり身辺小説だとは思えないの・・・ 横光利一 「作家の生活」
・・・たとえそのために人間性質のある点に関する興味が涸渇しようとも。私が他人を罵るのは畢竟自分を罵ることでした。他人の内に穢ないもののある事を見いだすのは、要するに自分の内にも同じもののある証拠に過ぎませんでした。五 あまりジメジ・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫