・・・帰途大阪へ立ち寄って、盛んに冗談口を利いてキャッキャッ笑っている武田さんは、戦争前の武田さんそのままであった。悪童帰省すという感じであった。何か珍妙なデマを飛ばしたくてうずうずしているようだった。 案の定東京へ帰って間もなく、武田麟太郎・・・ 織田作之助 「四月馬鹿」
・・・ばからしい。悪童の如く学び舎を叛き去った。いま、そのことを思い出す時、わが胸は、張り裂けるばかりの思いがする!」と、地団駄踏んで、その遺言書に記してあったようだが、私も、いまは、その痛切な嘆きには一も二も無く共鳴したい。たかが熊本君ごときに・・・ 太宰治 「乞食学生」
・・・ われ幼少の頃の話であるが、町のお祭礼などに曲馬団が来て小屋掛けを始める。悪童たちは待ち切れず、その小屋掛けの最中に押しかけて行ってテントの割れ目から小屋の内部を覗いて騒ぐ。私も、はにかみながら悪童たちの後について行って、おっかなび・・・ 太宰治 「作家の手帖」
・・・国内戦時代のことで、そのような悪童的な放浪の道はたまたま赤軍の装甲列車にぶつかり、そこで汽鑵たき助手などやることがあったりした。そのサーニが、臓品分配のことから刃傷沙汰を起し、半殺しの目にあってシベリアの雪の中に倒れていたところを、その地元・・・ 宮本百合子 「作品のテーマと人生のテーマ」
・・・ 悪童は、すっぱりと一つ喰らわされた。Yの洋装に田舎の子らしい反感を持ったのと、手下どもに己を誇示したかったのとが、偶然この少年をして「殴られる彼奴」にした原因だ。帰り、天主堂の坂下にその少年、他の仲間といたが、Yを認めると背中に括りつ・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
・・・ 纏って討論する理路と機会とを持たなかった昔の庶人の間に発達したこの批評の直観的な形は、今日の社会生活の内容に向っての批評としては、議会などで、とかく規模が小さく個人へ向って放たれる悪童の吹き矢の範囲を出ないのが多い。 きのうなどで・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
出典:青空文庫