・・・第一次大戦から二十五年を経ておこった第二次大戦の惨苦の底には、前にもまして強い平和への意志が流動している。人類の社会が発展するためには資本主義の仕組みから人民的な民主主義の方向をとらなければならないということがよりひろく常識のうちに肯定され・・・ 宮本百合子 「それらの国々でも」
・・・そして更にそのような人間としての惨苦を減らすための努力に歩み出さざるを得ない気持に高められ、統一されるものなのである。ここへ到達した時こそ、バックの作家的輪廓は一層大きくなり、人類に貢献する文学としての質においても歴史的なものとなり得ると思・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・などが、中国文学史の上で中国の悲傷、誠意、人民の惨苦への愛と民衆創造の希望を象徴した作品として、高く評価され記念さるべき時が近づきつつある。 昼間はもちろんのこと、夜じゅう田圃に立って、天の星や月の美しさ、露の味を知りつくしているのは身・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・ 日本の人民生活を、今日の惨苦につき入れ、戦場へやられた一人一人が平和の生活では思いもかけなかった残虐行為を行うようにしむけられたことに対して、日本の人民の戦争責任者追及は、むしろ寛大すぎるとさえいえる。二十万人の戦傷不具者・二十万人以・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・ 私は、聰明な久美子さん達がいかなることがあろうと救世軍に入ったら、今日生産面を土台とする社会の日々の生活において婦人と子供が受けている惨苦を根絶し得るなどと愚かなことを考えられることのないことを安心してよいと信じるのである。〔一九三五・・・ 宮本百合子 「短い感想」
・・・民衆はその惨苦な生活で実に夥しい才能、善良さを浪費させられているのである。 当時、ゴーリキイの職業はパン焼職工で十四時間の労働であった。職人仲間の給料日の唯一の楽しみは淫売婦のところへゆくことである。ゴーリキイも始めは誘われた。が、やが・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・これを一歩突込んでいえば、異常な惨苦をなめない、健康な生活力に漲った人間が、当然感じる生活愛といえるでしょう。生を愛さずに置けない本能です。然し、実際の生活苦などは知らないのだから、最も自分の想像、期待と調和する理想主義を、知識として呼び出・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
出典:青空文庫