・・・何もかもみな慈善のためじゃ。承知した。証文を書きなさい。」 さあ大変だあたし字なんか書けないわとひなげしどもがみんな一諸に思ったとき悪魔のお医者はもう持って来た鞄から印刷にした証書を沢山出しました。そして笑って云いました。「ではその・・・ 宮沢賢治 「ひのきとひなげし」
・・・ 体は弱し、中学を出たきりなので、これぞと云う働きもない男に、そう十分なだけのものをくれる慈善家はこの世智辛い世の中には居ない。 恭二は静岡の魚問屋の坊ちゃんで、倉の陰で子守相手に「塵かくし」ばかり仕て居たほど気の弱い頭の鉢の開いた・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・ただ、この先、おのおのの心のうちから、時々慈善事業に寄付でもすれば、富はいくら独専してもかまわない。悧巧に、経済状態を考え、子等さえ過剰にしなければ、自分の情慾に、何のはじも感じないでよい、というような、物の考えかたを根本から立てなおす為、・・・ 宮本百合子 「男…は疲れている」
・・・たとえばあなた達は慈善の深い方達だろうと思うのです。だけれども、お勤めや何かからお帰りになる途中で、いきなり人が出てきてハンド・バッグを掻っ払おうとした時には、あなた方が慈善深い方でもお渡しになることはないと思います。そのなかにはやってよい・・・ 宮本百合子 「幸福の建設」
・・・ 温情主義で搾取して、慈善設備でプロレタリアの母から子を奪う資本主義の文明をわれわれは徹底的に批判しなければならない。 女も手を握り、階級として立ち、せめて、よろこんで母になる権利を認めるプロレタリアの社会を一日も早くつくろうではな・・・ 宮本百合子 「「市の無料産院」と「身の上相談」」
・・・ヨーロッパ諸国じゃ、日本でもブルジョアが自分達の子供に玩具を買ってやるついでに貧児へ所謂慈善をほどこすクリスマスってやつ、キリスト降誕祭、あれを十二月二十五日にうんと盛にやって、その勢で大晦日正月は越しちまうんだ。 ――だって、お前、ソ・・・ 宮本百合子 「正月とソヴェト勤労婦人」
・・・ 他人の世話に成らない為に、養老院と、慈善病院があるではないかと云う人が無くはありますまい。けれども、私共が自分自身を、その裡に置いて考え、感じた時、あそこは果して快い平安な最後の場所でしょうか。 家族制度によって、過去幾百年来、全・・・ 宮本百合子 「ひしがれた女性と語る」
・・・フロレンスはついにロンドンの医者街、ハーレー街にある私立の慈善病院の監督となることができたのである。 それにしてもフロレンスは何故そのような執着をもって社会衛生に関係した仕事などに情熱を感じたのであろうか。 無責任な幾多の伝記者・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・五月号『働く婦人』編輯後記に短かく報道されていますが、中耳炎になった彼が警察から入院させられた済生会病院は、ブルジョア慈善病院らしくろくな手当てもしないばかりか、病がすすみもう生命が危いところまで行ったと知ると、責任を胡魔化すため「君は三日・・・ 宮本百合子 「ますます確りやりましょう」
・・・アメリカでは家族の人員によって割増のつく失業労働者手当の予算が尨大になる一方で、労働者が困るばかりか、貧困な労働者や失業者の子供の多いことでは、慈善団体、社会事業施設が等しく閉口して来た。産児の制限に対する態度が変化したのは、社会のこの部分・・・ 宮本百合子 「夜叉のなげき」
出典:青空文庫