・・・この箸がころんでも笑うものを、と憮然としつつ、駒下駄が飛んで、はだしの清い、肩も膝も紅の乱れた婦の、半ば起きた肩を抱いた。「御免なすって、旦那さん、赤蜻蛉をつかまえようと遊ばした、貴方の、貴方の形が、余り……余り……おほほほほ。」「・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
・・・ 憮然と部屋の隅につっ立っていた青年は、「たしかですか?」蒼ざめていた。「もう、五六日したら、記事も解禁になるだろうと思いますが。」善光寺は、新聞社につとめていた。 さちよは、静かに窓のカーテンをあけた。あたしは、病院でこの・・・ 太宰治 「火の鳥」
・・・我輩は移転後にこの話を聞いて憮然として彼の未来を想像した。 魯西亜と日本は争わんとしては争わざらんとしつつある。支那は天子蒙塵の辱を受けつつある。英国はトランスヴールの金剛石を掘り出して軍費の穴を填めんとしつつある。この多事なる世界は日・・・ 夏目漱石 「倫敦消息」
出典:青空文庫