・・・試験の時は、早く外へ出て吸いたい気持にかられて、いい加減に答案を書いて出してしまった。試験の成績など煙草の魅力にくらべると、ものの数ではなかった。いつか私は「朝、眼をさましてから、床の中でぐずついているような男は、配偶者としては、だめである・・・ 織田作之助 「中毒」
・・・の人気は、温順しい志村に傾いている、志村は色の白い柔和な、女にして見たいような少年、自分は美少年ではあったが、乱暴な傲慢な、喧嘩好きの少年、おまけに何時も級の一番を占めていて、試験の時は必らず最優等の成績を得る処から教員は自分の高慢が癪に触・・・ 国木田独歩 「画の悲み」
・・・学校における成績も中等で、同級生のうち、彼よりも優れた少年はいくらもいた。また彼はかなりの腕白者で、僕らといっしょにずいぶん荒れたものである。それで学校においても郷党にあっても、とくに人から注目せられる少年ではなかった。 けれども天の与・・・ 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・県立中学に多分合格しているだろうが、若し駄目だったら、私立中学の入学試験を受けるために、成績が分るまで子供は帰らせずに、引きとめている。ということだった。「もう通らなんだら、私立を受けさしてまで中学へやらいでもえいわやの。家のような貧乏・・・ 黒島伝治 「電報」
・・・ 採鉱成績について、それが自分の成績にも関係するので、抜目のない課長は、市三が鉱車で押し出したそれで、既に、上鉱に掘りあたっていることを感づいていた。「糞ッ!」井村は思った。 課長のあとから阿見が、ペコ/\ついて来た。課長は、石・・・ 黒島伝治 「土鼠と落盤」
・・・彼は、成績がよかった。 中学を出ると、再び殆んど無断で、高商へ学校からの推薦で入学してしまった。おしかは愚痴をこぼしたが、親の云いつけに従わぬからと云って、息子を放って置く訳にも行かなかった。他にかけかえのない息子である。何れ老後の厄介・・・ 黒島伝治 「老夫婦」
・・・学校の成績は、あまりよくなかった。卒業後は、どこへも勤めず、固く一家を守っている。イプセンを研究している。このごろ人形の家をまた読み返し、重大な発見をして、頗る興奮した。ノラが、あのとき恋をしていた。お医者のランクに恋をしていたのだ。それを・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・私が中学校で少しでも佳い成績をとると、おどさは、世界中の誰よりも喜んで下さいました。 私が中学の二年生の頃、寺町の小さい花屋に洋画が五、六枚かざられていて、私は子供心にも、その画に少し感心しました。そのうちの一枚を、二円で買いました。こ・・・ 太宰治 「青森」
・・・そのころは、私も学校の成績が悪くなかったので、この兄の一ばんのお気に入りであった。父に早く死なれたので、兄と私の関係は、父子のようなものであった。私は冬季休暇で、生家に帰り、嫂と、つい先日の御誕生のことを話し合い、どういうものだか涙が出て困・・・ 太宰治 「一燈」
・・・ 彼の学校成績はあまりよくなかった。特に言語などを機械的に暗記する事の下手な彼には当時の軍隊式な詰め込み教育は工合が悪かった。これに反して数学的推理の能力は早くから芽を出し初めた。計算は上手でなくても考え方が非常に巧妙であった。ある時彼・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
出典:青空文庫