・・・けれども、配給とりも直さず万事あてがい扶持で、唯々諾々と生きる無気力の習性となるなら、それは堕落と云われなければならない。私たちは自分たちの世代において文化を堕落させたという責を、愛する後代から指摘されることは欲していないのである。〔一九四・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・その主権者として、封建時代の数百年小大名より僅かな扶持を幕府から支給されて生活して来た京都の天皇一家を招待して来た。明治支配者の利害を共にするために天皇の一家も大地主となり、大財閥に勝るとも劣らない大資本家となった。所有土地百三十五万町歩、・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・井原は切米三人扶持十石を取っていた。切腹したとき阿部弥一右衛門の家隷林左兵衛が介錯した。田中は阿菊物語を世に残したお菊が孫で、忠利が愛宕山へ学問に往ったときの幼な友達であった。忠利がそのころ出家しようとしたのを、ひそかに諫めたことがある。の・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・留守へは扶持が下がる。りよはお許は出ても、敵を捜しには旅立たぬことになって見れば、これで未亡人とりよとの、江戸での居所さえ極めて置けば、九郎右衛門、宇平の二人は出立することが出来るのである。 りよは小笠原邸の原田夫婦が一先引き取ることに・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
・・・ るんはこれから文化五年七月まで、三十一年間黒田家に勤めていて、治之、治高、斉隆、斉清の四代の奥方に仕え、表使格に進められ、隠居して終身二人扶持を貰うことになった。この間るんは給料の中から松泉寺へ金を納めて、美濃部家の墓に香華を絶やさな・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・そこで女房は夫のもらう扶持米で暮らしを立ててゆこうとする善意はあるが、ゆたかな家にかわいがられて育った癖があるので、夫が満足するほど手元を引き締めて暮らしてゆくことができない。ややもすれば月末になって勘定が足りなくなる。すると女房が内証で里・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
出典:青空文庫