・・・ 学芸大会では拍手喝采だった。各小学校の校長先生たちや、郡長さん始め、県の役人なども沢山いるところで、私たちは非常に面目をほどこしてから、受持の先生に引率されて帰ってきたが、それから林と私はますます仲良しになった。 あるとき林の家へ・・・ 徳永直 「こんにゃく売り」
・・・らざるなり、ともかくも人間が自転車に附着している也、しかも一気呵成に附着しているなり、この意味において乗るべく命ぜられたる余は、疾風のごとくに坂の上から転がり出す、すると不思議やな左の方の屋敷の内から拍手して吾が自転行を壮にしたいたずらもの・・・ 夏目漱石 「自転車日記」
・・・この暑いのにそう長くやっては何だか脳貧血でも起しそうで危険ですからできるだけ縮めてさっさと片づけますから、その間は帰らずに、暑くても我慢をして、終った時に拍手喝采をして、そうしてめでたく閉会をして下さい。 私は先年堺へ来たことがあります・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・ホールでは拍手の音がまだ嵐のように鳴って居ります。楽長はポケットへ手をつっ込んで拍手なんかどうでもいいというようにのそのそみんなの間を歩きまわっていましたが、じつはどうして嬉しさでいっぱいなのでした。みんなはたばこをくわえてマッチをすったり・・・ 宮沢賢治 「セロ弾きのゴーシュ」
・・・ 俄かに澄み切った電鈴の音が式場一杯鳴りわたりました。 拍手が嵐のように起りました。 白髯赭顔のデビス長老が、質素な黒のガウンを着て、祭壇に立ったのです。そして何か云おうとしたようでしたが、あんまり嬉しかったと見えて、もうなんに・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・ 大人は拍手を送る。 かついでいる当人のコムソモールも大いにこの人気は満足らしい。大ニコニコで、盛んに社会的清掃をつづけながら遠ざかった。 自動車工場「アモ」のデモは別の趣好だ。幾流もの横旗の上に小さい自動車が一台ゆれてくる。み・・・ 宮本百合子 「インターナショナルとともに」
・・・彼の見事さというものは、謂わば危くも転落しそうに見える房飾つきの水盃を、百尺竿頭に保っている、その際どいかね合いで、拍手は、その緊張に対し、そのサスペンスの精力に対してなされた。 素朴な云い方をもってすれば、私は、石坂洋次郎氏や横光氏そ・・・ 宮本百合子 「落ちたままのネジ」
・・・ これらの作品は、非常に複雑で熱い意欲をたくみに圧縮しつつ心を打つ力をもっていると思われますし、別な例では、ようやく終った所長の訓示ヒヤカシ半分に拍手浴びせワッと喊声あげて職場へ引き上げる。など、・・・ 宮本百合子 「歌集『集団行進』に寄せて」
・・・ 場面場面は十分観衆をひきつけているらしいのに、いよいよ久作も工場へ入る度胸が据って目出度しの幕切れの拍手は、案外にまばらであった。これは明るい幕切れであり、或る意味でのハピイ・エンドなのだが、今日の観衆の生活感情のどういうものがそのハ・・・ 宮本百合子 「「建設の明暗」の印象」
・・・前列の中央に胡坐をかいていた畑を始として、一同拍手した。私はこの時鎖を断たれた囚人の歓喜を以て、共に拍手した。 畑等が先に立って、前に控所であった室の隣の広間をさして、廊下を返って往く。そこが宴会の席になっているのである。 私は遅れ・・・ 森鴎外 「余興」
出典:青空文庫