・・・ 女の人間らしい慈愛のひろさにしろ、それを感情から情熱に高め、持続して、生活のうちに実現してゆくには巨大な意力が求められる。実現の方法、その可能の発見のためには、沈着な現実の観察と洞察とがいるが、それはやっぱり目の先三寸の態度では不可能・・・ 宮本百合子 「新しい船出」
・・・異性の友情という、どことなし従来の婦人雑誌のトピック向きな空気の低迷した隅からぬけ出して、もっと心理が強健で、もっと持続性と自主性とをもった両性の友情がはぐくまれて行くことを、私たちは自分たちの生活の現実としての希望としているし、努力してい・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・ これに対してラップの指導部は討論を持続しながら、結語はなかなか与えなかった。いろいろの問題がそこに含まれているからである。 第一、ソヴェトのプロレタリア作家たちが、一時的に農村や工場へ出かけて行って観察し、材料を集めて来るというよ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ゆっくり、根気よく、仕事に要される持続力の全幅を傾けてやりましょう。 M子のために買ってやったフランス語の第一課を見たら〔欧文約十八語抹消〕「忍耐は日常不断の勇気である」又〔欧文約十二語抹消〕「天才とは永き忍耐である」等、一寸洒落た文句・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ これは、愚にもつかないふざけだが、やかましさで苦しむ苦しさは持続的で、頭を疲らせた。暑気が加わると、騒音はなおこたえた。私は困ったと思いながら、それなり祖母の埋骨式に旅立ったのであった。 フダーヤは、別に何とも云ってはいなかったの・・・ 宮本百合子 「この夏」
・・・それで無理が生じ、やがてその究極はと考えるものもあるが、ソヴェトでは二年前に出来たプログラムがそのまま五年間も持続されるというようなことは全然ない。ソヴェトの実際方針は根本的には一本であるけれども、弁証法的に非常に弾力をもっている。それだか・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・又、鮮人がしたとしても、問題はこの事件の落着にとどまらず、朝鮮と日本の在る限り、重大な、持続的な問題である。 八日、基ちゃんと、青山にかえる途中、乃木坂行電車の近くで、大森の基ちゃんの友人に会い、実際鮮人が、短銃抜刀で、私人の家に乱入し・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・ このことはおそらく狂気じみたいら立たしさ――持続の意力をほとんど完全に欠いた神経の慄動――をもって芸術に影響するだろう。十九世紀末のデカダンスを普仏戦争の影響と結びつけて考え得るものは、現戦争の後にさらに強度のデカダンスを予期しなくて・・・ 和辻哲郎 「世界の変革と芸術」
・・・生の美しさは個性と持続とのなかからのみ閃めき出るように思える。断片的な享楽の美は私には迷わしにほかならない。 またたとえそれを一つの態度として許しても、そこには内在的な批評の余地があろうと思う。すなわち彼らは果たしてその態度を徹底させて・・・ 和辻哲郎 「転向」
・・・かかる面を最初に芸術的に仕上げたのはギリシア人であるが、しかしその面の伝統を持続し、それに優れた発展を与えたものは、ほかならぬ日本人なのである。 昨秋表慶館における伎楽面、舞楽面、能面等の展観を見られた方は、日本の面にいかに多くの傑作が・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫