・・・幅広からぬ往還に立ちて、通り掛りの武士に戦を挑む。二人の槍の穂先が撓って馬と馬の鼻頭が合うとき、鞍壺にたまらず落ちたが最後無難にこの関を踰ゆる事は出来ぬ。鎧、甲、馬諸共に召し上げらるる。路を扼する侍は武士の名を藉る山賊の様なものである。期限・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・(米人のわれに負けたるをくやしがりて幾度も仕合を挑むはほとんど国辱この技の我邦に伝わりし来歴は詳かにこれを知らねどもあるいはいう元新橋鉄道局技師米国より帰りてこれを新橋鉄道局の職員間に伝えたるを始とすとかや。(明治十四、五年の頃それよりして・・・ 正岡子規 「ベースボール」
・・・石田は雌雄を一しょに放して、雄鶏が片々の羽をひろげて、雌の周囲を半圏状に歩いて挑むのを見ている。雌はとかく逃げよう逃げようとしているのである。 間もなく、まだ外は明るいのに、鳥は不安の様子をして来た。その内、台所の土間の隅に棚のあるのを・・・ 森鴎外 「鶏」
出典:青空文庫