・・・父は私たちが芸術に携わることは極端に嫌って、ことに軽文学は極端に排斥した。私たちは父の目を掠めてそれを味わわなければならなかったのを記憶する。 父の生い立ちは非常に不幸であった。父の父、すなわち私たちの祖父に当たる人は、薩摩の中の小藩の・・・ 有島武郎 「私の父と母」
・・・思切って、ぺろ兀の爺さんが、肥った若い妓にしなだれたのか、浅葱の襟をしめつけて、雪駄をちゃらつかせた若いものでないと、この口上は――しかも会費こそは安いが、いずれも一家をなし、一芸に、携わる連中に――面と向っては言いかねる、こんな時に持出す・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・同じ操觚に携わるものは涙なしには読む事が出来ない。ちょうどこの百七十七回の中途で文字がシドロモドロとなって何としても自ら書く事が出来なくなったという原稿は、現に早稲田大学の図書館に遺存してこの文豪の悲痛な消息を物語っておる。扇谷定正が水軍全・・・ 内田魯庵 「八犬伝談余」
・・・とにかく、連句に携わる人はもちろん、まだこれについて何も知らない人でも、試みに「芭蕉七部集」の岩波本を活動帰りの電車の中ででも少しばかりのぞいて見れば、このごろ舶来のモンタージュ術と本質的に全く同型で、しかもこれに比べて比較にならぬほど立派・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 文学に携わるものとして作家が変るというからは、やはり執拗にそれぞれの作家のよりひろく高い成長を目標として語られ考えられなければならないと思う。 題材主義に対する批判は、昨年から今年の前半にかけて各方面からとりあつかわれた問題であっ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
出典:青空文庫