・・・若しこの社会の有力なる識者が、真に母が子供に対する如き無窮の愛と、厳粛さとを有って行うのであれば宜しいけれども、そうでないならば寧ろ自然の儘に放任して置くに如かぬ、彼等の多くは愛を誤解している。 茲に苦しんでいる人間があるとする。それを・・・ 小川未明 「愛に就ての問題」
・・・だから検挙して検事局へ廻しても、検事局じゃ賭博罪で起訴出来ないかも知れない、警察が街頭博奕を放任してるのもそのためだと、嘘か本当か知らんが穿ったことを言っていたよ。まアそんなものだから、よした方がいいと思うな」「いや、今度は大丈夫儲けて・・・ 織田作之助 「世相」
・・・だが、小作料のことから、田畑は昨秋、収穫をしたきりで耕されず、雑草が蔓るまゝに放任されていた。谷間には、稲の切株が黒くなって、そのまゝ残っていた。部落一帯の田畑は殆んど耕されていなかった。小作人は、皆な豚飼いに早替りしていた。 たゞ、小・・・ 黒島伝治 「豚群」
・・・父はそれまで、勝治の事に就いては、ほとんど放任しているように見えた。母だけが、勝治の将来に就いて気をもんでいるように見えた。けれども、こんど、勝治の卒業を機として、父が勝治にどんな生活方針を望んでいたのか、その全部が露呈せられた。まあ、普通・・・ 太宰治 「花火」
・・・じことをして無事に写真をとって帰って、生徒やその父兄たちに喜ばれた先生は何人あるかわからないし、この橋よりもっと弱い橋を架けて、そうしてその橋の堪えうる最大荷重についてなんの掲示もせずに通行人の自由に放任している町村をよく調べてみたら日本全・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・もしこれをそのままに放任して行けば末はどこまで行くかわからない。しかし私は途中でこのあてなしの逍遙を切り上げもう一ぺん元の所へ立ち帰り「前句」の場面に立ちもどってしかとこれを見直してみる。すると前には見えなかった別の扉のようなものがすうと開・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・タフト・ハートレー法に賛成し、非アメリカ委員会のゆきすぎの活動を放任した代議士がそのなかにふくまれている民主党が、タフト・ハートレー法の撤廃を第一にかかげて労働組合員の投票をあつめ、進歩的な男女の票をあつめなければならなかったところにこそ、・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・自分が飼ったら、注意深く放任して、決していやにこまちゃくれた芸は仕込むまいと云う私の持論を喋ることもあった。人間が人間らしくないのは辛いように、犬も犬でなくなるのは悲しかろう。私は、下町の心に自然な暢やかさがない者達が、いじらしい程怜悧な犬・・・ 宮本百合子 「犬のはじまり」
・・・第一、婦人労働者がこんなに働いているところで、彼みたいな男を放任して置くことは、もう女たちに辛棒出来なくなって来た。 工場クラブの広間には床几が並んでいる。赤い布のかかったテーブルがある。 ぞくぞく陽気な婦人労働者が入って来た。てん・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・それを恋愛は自由であるからとして放任して置くかというと全然反対である。余り非社会的な行為をする場合には共産党青年団の中で、同志的制裁を加えるか、反省を促される。 女の社会的価値を無視したことをやれば勿論除名もされ得る。けれどもそれだけが・・・ 宮本百合子 「ソヴェトに於ける「恋愛の自由」に就て」
出典:青空文庫