・・・ もうロザリーは、この為に銀行の仕事を放擲しようとなどは思わない女性の一人になっていました。欧州戦乱が折から勃発した当時の英国の社会には彼女が教育上責任を転嫁し得る多くの欠陥のあったことも事実です。 夏中休暇に、友達の処に滞留してい・・・ 宮本百合子 「「母の膝の上に」(紹介並短評)」
・・・ それこそは、四年前に、批判の精神が自身の性能の本来なる力の放擲をあからさまにしたとき、その根源の理由として、従来文学に携って来た一部の知識人の最も深刻な歴史的な自己放棄・自己の存在価値への人間的確信の失墜が生じたからであると思う。当時・・・ 宮本百合子 「文学精神と批判精神」
・・・そう焦慮して、作者は「思い切って職を抛擲し、専心文学に精進しようと思い立った。」 だが、二三ヵ月で、その生活は経済的にゆきづまって以来、作者は、S女史という婦人作家の助手をやり、聾唖学校の教師になり、紡績工場の世話係、封筒かき、孤児院の・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・わたし達が女とし、作家として真に恥ずべきは、文学的労作をもふくむ現実の生活の中でその矛盾の探求を放擲したり、生活そのものは人間として当然憤懣を感じるべき種類の重圧の下におかれていながら、今日では未だ支配的な階級の文学に作家的努力の方向で無内・・・ 宮本百合子 「見落されている急所」
・・・もし、歴史文学を志す人々が、今日の歴史の根本の性格をいかに捕えるかという努力を放擲して、現象の姿の相似を過去の出来事の中に見出してだけ行ったとすれば、もう其は歴史文学とは云えず、単に過去を題材とした風俗小説になってしまうだろう。歴史文学の歴・・・ 宮本百合子 「歴史と文学」
・・・私達は日本の社会のそれほどに根深い封建性と、それに慣らされた、自分達女性が、愛を守る智慧さえもなく、女の命と言われる愛情への権利さえも放擲して来たことについて、涙をこぼすというよりももっと無念さを感じるのである。 婦人の感情は、現実が苦・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・ 征服しなければ自己を守り得ないとすれば、私は、原因となる対象を全部否定し、生活圏外に放擲してしまわなければならない。約言すれば、自箇の天性があれほどいつくしみ信じ、暖く胸に抱いて来た愛の、対人的可能を、絶対に否定し尽さなければならない・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・ われわれが社会を問題とせずして、文学を問題としているとき、最早やわれわれには、コンミニズム文学は、問題から抛擲されるべき問題たる素質を持って来たのである。そうして、われわれの文学の新しき問題たるべきことこそは、彼らに代って起るべき・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
出典:青空文庫