・・・立てても、私には一向にその人たちを信用する気が起らず、自由党、進歩党は相変らずの古くさい人たちばかりのようでまるで問題にならず、また社会党、共産党は、いやに調子づいてはしゃいでいるけれども、これはまた敗戦便乗とでもいうのでしょうか、無条件降・・・ 太宰治 「トカトントン」
・・・内山氏の紹介は、「まったく敗戦後のドイツの姿は、今日の日本を彷彿させるものがある」と当時の事情にふれている。大戦後の混乱は有名なマークの暴落をひきおこし、一方にすさまじい成りあがりを生み出しながら、中産階級は没落して、エリカ・マンさえ靴のな・・・ 宮本百合子 「明日の知性」
・・・生きてかえる可能性が、敗戦のなかにあろうとはおもえなかったから、某誌の勇しぶりに、せめてものこころゆかせをつないだ。大本営発表のほとんどすべてがうそであったとわかった八月十五日からあとしばらくは、さすがの某誌も沈黙した。さっそく話をかえて読・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・頭も気も狭い信徒仲間の偏見と、日本の重い家族制度の絆と戦おうとする葉子を、作者は彼女の敗戦の中に同情深く観察しようとしている。人間の生活の足どりを外面的に批判しようとする俗人気質に葉子と共に作者も抵抗している。それらの点で作者の情熱ははっき・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・日本は敗戦という一つの歴史の門をくぐって、よりひろく新しい世界人類への道を踏み出したのである。 そういうことは、すべての人によくわかっている。そして、一人一人、もうすでに、外的な事情に押されながらにしろ、そういう方向に爪先をむけて進んで・・・ 宮本百合子 「歌声よ、おこれ」
・・・ 敗戦後の日本に、肉体派とよばれる一連の文学があらわれた。過去の日本の封建性、軍国主義は、日本のヒューマニティーを封鎖し、破壊し、生命そのものをさえ、その人のものとさせなかった。ヒューマニティーの奪還、生命に蒙った脅迫への復讐として、あ・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
・・・客車の中は敗戦の悲観論にみち溢れている。鉄道沿線の国道には、西へ西へと避難してゆく自動車の列がどこまでも続いている。しかしキュリー夫人はあたりの動乱に断乎として耳をかさず、憂いと堅忍との輝いている独特な灰色の眼で、日光をあびたフランス平野の・・・ 宮本百合子 「キュリー夫人」
二、三日前の新聞に、北満の開拓移民哈達河開拓団二千名の人々が、敗戦と同時に日本へ引揚げて来る途中、反乱した満州国軍の兵に追撃され、四百数十名の婦女子が、家族の内の男たちの手にかかって自決させられたという記事がありました。・・・ 宮本百合子 「講和問題について」
・・・何もかも敗戦がわるいんですよ。生活の安定がうばわれていることも、またもや軍国主義者が復活し、ことありげな空気をかもしていることも、なにもかも敗戦がわるいのだ。そうあきらめて屈従する気分が、日本の女性の感情を重く鈍くかげらしていないのならば、・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・戦時中、大軍需会社の下うけをやっていて、小金をためたような小企業家が、さて、敗戦と同時に、何か別途に金をふやす方法をさがした。軍部関係で闇に流れた莫大な紙があった。戦後、続出した新興出版事業者は、ほとんど例外なしに、この敗戦おきみやげたる紙・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
出典:青空文庫