・・・大阪、京都などのような都会は、違った文化が見られて悪るくはないと思いますが、旅として見て、東海道あたりの海が見え、松があるといった美しいだけで、唯長々と眠につづいている整然とした風景よりも、変化のある北の方が好ましいと思います。 旅行で・・・ 宮本百合子 「愛と平和を理想とする人間生活」
・・・建物も整然、子供らも整然。整然。すべてこれ優等児製造はかくの如き文化性から生み出されるかという印象を与える雰囲気、画面の所謂芸術写真風な印画美であるが、私たち数人の観衆はこの文化映画として紹介されているもののつめたさに対して何か人間としての・・・ 宮本百合子 「映画の語る現実」
・・・婦人従業員をふくめた自衛団が組織され、全員十六歳から二十五歳という青年だがその統制が整然としていること。職場の特殊性をすべて争議団側に有利なように科学的に利用している点とともに、革命的指導による極めて新しいストライキの型を示すものであった。・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・愉快そうで、整然としていて、胸も躍る光景だ。「五ヵ年計画ヲ四ヵ年デ!」「ブルジョア反ソヴェト陰謀ヲブッ潰セ!」 次から次へ赤いプラカードが来る。あいまには、張物だ。ブルジョア、地主、坊主が、社会主義社会建設のために働くプロレタリ・・・ 宮本百合子 「勝利したプロレタリアのメーデー」
・・・だから十二三位の子供と話して見ると、彼等の有っている知識が実に整然としていて、範囲が非常に広く、国際的であるのにびっくりする。無駄がない。 それからまた一方に、ソヴェトの教育は、労作と結び付いている教育である。だから例えば我々が学校・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・ 勿論、人間の生活が徒に秩序正しいので完全なものだとも云えなければ、整然としたのばかりがよいのではありません。然し、我々の生活では、頭や心が何等かの意味に於て混乱している時、願っても順序よい生産的な日常を持つことは出来ないのではあります・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・メリメの作品の力と欠点とは整然とした描写の統制の中にある。 バルザックの文章は、書かれている事件が複雑な歴史に踏みへらされたパリの石敷道にブルジョアの馬車が立ててゆく埃を浴びているばかりでなく、文章そのものが、まるで、一見無駄なものや、・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・と大旗を立て整然とした男女の大部隊がつづいてくる。とりわけ元気に、赤旗を先頭に立ててきた一団の中にあの顔、見なれた若い女の人たちがいて、互に行列の中と歩道から思わず声をかけて手をとり合い、わたしは、もうほんの少しで行進の中にさらいこまれそう・・・ 宮本百合子 「メーデーに歌う」
・・・ 単純であった為、整然としていた自己というものは、極度に分裂してしまいました。分裂した一部分が、それぞれの活力と発言権とをもって対立する。 この時、私が、実際生活上に起る諸事の軽重を弁え、兎に角自己の立てるべき処を失わずに日々を処理・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・雑多な記憶材料に一定の方向を与え、それを整然とした形に結晶させた力は、あくまでも探求心である。 言語の問題に関しては先生はいつも活発な関心を持っていられた。わたくしのわずかな接触の間にも、この問題についておりにふれて教えられたことは、か・・・ 和辻哲郎 「露伴先生の思い出」
出典:青空文庫