・・・という言葉がアラビヤ最初の言葉として発せられた時、たまたま沙漠に風が吹いてその青年の口に砂がはいったからだと、私は解釈している、更に私をして敷衍せしむれば、私は進化論を信ずる者ではないが、「キャッキャッ」という音は実は人類の祖先だと信じられ・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・彼のふるさとの先輩葛西善蔵の暗示的な述懐をはじめに書き、それを敷衍しつつ筆をすすめた。彼は葛西善蔵といちども逢ったことがなかったし、また葛西善蔵がそのような述懐をもらしていることも知らなかったのであるが、たとえ嘘でも、それができてあるならば・・・ 太宰治 「猿面冠者」
・・・わしは西洋の思想は、すべてキリストの精神を基底にして、或いはそれを敷衍し、或いはそれを卑近にし、或いはそれを懐疑し、人さまざまの諸説があっても結局、聖書一巻にむすびついていると思う。科学でさえ、それと無関係ではないのだ。科学の基礎をなすもの・・・ 太宰治 「十五年間」
・・・モスコフスキーはこれを敷衍して「婦人は微分学を創成する事は出来なかったが、ライプニッツを創造した。純粋理性批判は産めないが、カントを産む事が出来る」と云っている。 話頭は転じて、いわゆる「天才教育」の問題にはいる。特別の天賦あるものを選・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・ このような変痴奇論を敷衍して行くと実に途方もない妙な議論が色々生まれて来るらしい。例えば孔子の教えた中庸ということでも解釈のしようによっては「いつも半分風邪を引いているように」という風に受取れるかもしれない。生まれてから七、八十歳で死・・・ 寺田寅彦 「変った話」
・・・ 不易流行や虚実の弁については古往今来諸家によって説き尽くされたことであって、今ここに敷衍すべき余地もないのであるが、要するにこれは俳諧には限らずあらゆるわが国の表現芸術に共通な指導原理であって、芸と学との間に分水嶺を画するものである。・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・を白日の明るみに引きずり出してすみからすみまで注釈し敷衍することは曲斎的なるドイツ人の仕事であったのである。芸術のほうでもマチスの絵やマイヨールの彫刻にはどこかにわれわれの俳諧がある。これがドイツへはいると、たちまちに器械化数学化した鉄筋式・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・ところがある心理学者の説を敷衍して考えるとそういう作用が起こるので始めて「笑い」が成立する。笑うからおかしいのでおかしいから笑うのではないという事になる。 私が始めてこの説を見いだした時には、多年熱心に捜し回っていたものが突然手に入った・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・からこの三四頁を口から出まかせに敷衍して進行して行きます。敷衍しかたをあらかじめ考えていないから、どこをどっちへ敷衍するか分らない。時によると飛んだ寄り道をして、出る所へも出られず、帰る所へも帰れないかも知れないと云うすこぶる心細い敷衍法を・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・なお敷衍していえば、あなた方はまず公式を頭の中に入れて、その application が必要である。それは人間が考えたものに違いないけれども、私がこのものがいやだといっても御免蒙ることはできない。universal ということは perso・・・ 夏目漱石 「無題」
出典:青空文庫