新年というものについて抱く私たちの心持も、その年々によって様々ですし、一人のひとの生活の其々の時代によっても又おのずから、異った感想をもつものだということを、近頃感じて居ります。 お正月という言葉で新年が考えられていた・・・ 宮本百合子 「歳々是好年」
『中央公論』の新年号に、アンドレ・ジイドのソヴェト旅行記がのっている。未完結のものであるが、あの一文に注目をひかれ、読後、様々の感想を覚えた読者は恐らく私一人にとどまらなかったであろうと思う。 間もなく、去る一月六日から・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・の分析、又『文化集団』新年号の最も重要な記事の一つ、ローゼンタールの「生活及び文学における典型的性格」研究などは、細かい部分についてはある註解がいると思われるところもあるが、以上の問題にも連関して一読の価値があると思われた。『文化集団』・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
二月 日曜、二十日 朝のうち、婦人公論新年号、新聞の切りぬきなどをよんだ。東京に於る、始めての陪審裁判の記事非常に興味あり。同時に陪審員裁判長の応答、その他一種の好意を感じた。紋付に赤靴ばきの陪審員の正直な熱心さが・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・『スタイル』という婦人のモード雑誌の新年号にアンケートがある。ラヴ・レターをお書きになったことがお有りですか。すましていてすべってころんだときは、どういうポーズと表現をしますか。あなたのお顔の色々の道具の中で何が一番お好きですか。云々という・・・ 宮本百合子 「戦争はわたしたちからすべてを奪う」
・・・然るに昨年の暮におよんで、一社員はまた予をおとずれて、この新年の新刊のために何か書けと曰うた。その時の話に、敢て注文するではないが、今の文壇の評を書いてくれたなら、最も嬉しかろうと云うことであった。何か書けが既に重荷であるに、文壇の事を書け・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
・・・丁度新年で、門口に羽根を衝いていた、花房の妹の藤子が、きゃっと云って奥の間へ飛び込んで来た。花月新誌の新年号を見ていた花房が、なんだと問うと、恐ろしい顔の病人が来たと云う。どんな顔かと問えば、只食い附きそうな顔をしていたから、二目と見ずに逃・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・久し振の新年も迎えた。秀麿は位階があるので、お父う様程忙しくはないが、幾分か儀式らしい事もしなくてはならない。新調させた礼服を著て、不精らしい顔をせずに、それを済ませた。「西洋のお正月はどんなだったえ」とお母あ様が問うと、秀麿は愛想好く笑う・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・ こういう仕方でやがて夏になり、野萩の咲くころとなり、秋に入り、雪を迎え、新年になる。遅い山国の春にも紅梅が咲き、雪が解け、やがて猫やなぎがほほけ、つくしがのび、再び蓮華草の田がすきかえされ、初雷の聞こえるころになる。その間の数多い歌が・・・ 和辻哲郎 「歌集『涌井』を読む」
・・・新年言志みことのりあやにかしこみかしこみてただしき心おこせ世の人廿七日の怪事件を聞きていざさらば都にのぼり九重の宮居守らん老が身なれど野老 こういう手紙が大晦日の晩についた。野老は小生の老父で、安・・・ 和辻哲郎 「蝸牛の角」
出典:青空文庫