・・・そうすると三四人の友達と一緒に僕の側に来ていたジムが、「僕は昼休みの前にちゃんと絵具箱を調べておいたんだよ。一つも失くなってはいなかったんだよ。そして昼休みが済んだら二つ失くなっていたんだよ。そして休みの時間に教場にいたのは君だけじゃな・・・ 有島武郎 「一房の葡萄」
・・・その辺は昼休みの時間などに塾の生徒のよく遊びに来るところだ。高く築き上げられた、大きな黒ずんだ石の側面はそれに附着した古苔と共に二人の右にも左にもあった。 旧足軽の一人が水を担いで二人の側を会釈して通った。 矢場は正木大尉や桜井先生・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・遠くの大きな銀行ビルディングの屋上に若い男が二人、昼休みと見えてブラブラしている。その一人はワイシャツ一つになって体操をしてみたり、駆け足のまねをしてみたり、ピッチャーの様子をしたりしている。もう一人は悠然としてズボンのかくしに手を入れ空を・・・ 寺田寅彦 「LIBER STUDIORUM」
・・・ 先生や友達の個人的な思い出は抜き、次に印象深いのは、お昼休み前後の光景である。 想っただけで、私の前には、あの輝く空と、波のように砂利を踏む無数の足音、日を吸って白く暖い廊下、笑声、叫ぶ声が聞えて来る。御弁当を持たず、家が近所の人・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・などを、自分なりの理解で熱中してよみ、長い昼休みの時間、そういう本をもって、本校と云われた古い赤煉瓦の建物の、閉ったきり永年開けられることのない大きい扉の外の石段にかけて読むとき、何にたとえん、と云う満足であった。すこし引込んだ庭かげになっ・・・ 宮本百合子 「女の学校」
・・・丁度昼休みで、ソヴェト同盟の労働者が仕事着のままその前に坐っているピアノの音が聞えはじめたという訳だ。ここではタイプライターで綺麗にうった職場の壁新聞を見た。 強烈な、新鮮な建設の現実にうたれてモスクワへ帰って来た。 間もない或る日・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ソヴェトでは働く婦人の健康の特にこの点を注意して、新しく制定された工場の規定では、これまで一時間あった昼休みの外に午前と午後、或る時間内機械を休止させ、就業中窓をしめているところでは窓をあけ、皆そろって深呼吸と簡単な全身の体操をすることにな・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・家へ帰ってシチを食って、さてまた市のあっちの端まで、たとえば労働者新聞で今朝読み工場では一時間の昼休みに職場委員がそのために集った「生産経済計画」の演説をききに行く気になるだろうか。「よき労働はよき休養を必要とする」休養の合理化として、・・・ 宮本百合子 「三月八日は女の日だ」
・・・遠くの運動場の方からは長い昼休みのさわぎが微にきこえて来る。私はそこのかくれ場所で、何というひそかなたのしさでメレジェコフスキーの小説やトルストイとドストイェフスキーという評伝などを読んだことだろう。 心のときめくかくれ場所はもう一とこ・・・ 宮本百合子 「青春」
・・・ニーナは安全に電車にのれた。 工場へ曲る角に新聞雑誌の屋台店がある。ニーナは昼休みに仲間によんできかせてやるため、毎朝そこで『プラウダ』を買って行く習慣だ。店番をしている十五ばかりのナターシャがニーナを見て今朝は「お早う」のかわりに・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
出典:青空文庫