・・・ういう方向にもってゆく場合が目立ってとらえられていたというのも、云って見れば、暗黙のうちに女のひとの心の中に生じていた結婚に対する遅疑や逡巡が照りかえしたものとしての現れであると云えるところもあろう。時局に際しての女の身の上相談として、実際・・・ 宮本百合子 「これから結婚する人の心持」
・・・永年の窮迫と不遇から時局によって世間的に一躍し、温泉へ行って忙しい忙しいと小説を書きとばしているというような農民生活の在りようを、農村生活の現実とてらし合せて考えたとき、その作品が、かち得る賞というものについて、人の心は単純にあり得ないのも・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・『都新聞』の文芸欄に先頃二人ばかりの作家たちがやはり時局に対しての感想を載せたことがあった。あの時、或る作家の文章が、その部分を切って、名をかくして人に読ませたら、おそらく読まされた者は駅売りのパンフレットのような種類の文章の中の数行を・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・そして、文章が内容なしで一行だって書かれるものでないから、文章の上でそういう時局風な主張をもっている場合、その文章のなかみもおのずから形式と一致したものをもっているのが、実際である。この傾向は、文章道の上での、よしあしの問題から、その当初に・・・ 宮本百合子 「今日の文章」
・・・ ほんとうに、この一年はどんな年でしょう。時局は人間成長の枠であるということも沁々思われます。歳々を是好年に充実してゆこうとする人間らしい意欲についても、新しい挨拶をおくりたい心持です。〔一九四〇年一月〕・・・ 宮本百合子 「歳々是好年」
・・・最もいつわりのなかるべき芸術の仕事をしている女のひとの感情でさえ、たとえば近頃の岡本かの子氏の時局和歌などをよむと、新聞でつかうとおりの粗大な形容詞の内容のまま、それを三十一文字にかいていられる。北原白秋氏は、観念上の「空爆」を万葉調の長歌・・・ 宮本百合子 「祭日ならざる日々」
・・・なお、考えさせられることは、作者の人間に対して抱いている観念そのものが、作者の地主としての農村に於ける生活のニュアンスから蒙っている影響や、人間の生きようというものに対して時局が要求している調子に或る反響を示している点である。さもなければ、・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・ 十数年来婦選のために力をつくして来た種々の婦人団体は昭和九年以来、方向転換して母子保護法の達成に協力することとなり、十二年それが可決されてのち、婦選運動家たちの動きは、時局に際して一種の名状しがたい消極的混乱におかれるに到った。「時局・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
・・・手近な例として、今日の複雑な時局について、知識人は、どんな広い客観的視野、批判の自由を持っているであろう。こんにちの歴史の局面について世界史的に、大局的に判断することが可能なような知的な自由というものを知識人は与えられていない。誰でも読む新・・・ 宮本百合子 「全体主義への吟味」
・・・事変直前と去年の十一月とを比べると、婦人労働者の数は三十六万人の増加で、二百二十三万人になっている。時局産業では、男よりも女の増員率がずっと高くて、昭和十三年でさえ二年前の約倍の十万六千八百人が機械工場で働くようになって来ている。それでもま・・・ 宮本百合子 「働く婦人」
出典:青空文庫