・・・ところで、めくら草紙だが、晦渋ではあるけれども、一つの頂点、傑作の相貌を具えていた。君は、以後、讃辞を素直に受けとる修行をしなければいけない。吉田生。」「はじめて、手紙を差上げる無礼、何卒お許し下さい。お蔭様で、私たちの雑誌、『春服』も・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ 文章と科学「甲某の論文は内容はいいが文章が下手で晦渋でよくわからない」というような批評を耳にすることがしばしばある。はたしてそういうことが実際にありうるかどうか自分にははなはだ疑わしい。実際多くの場合にすぐれた科学・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・光線が暗いという上心持の晦渋さをも幾分含む。それには、植込の樹にも大分関係あるらしいことが九州へ来て分った。九州の樹は前にも云う通りすらりと高い。木によって違うだろうが楓なら、坐った高さで先ず若葉ごしの日光を受ける幹が目に入る程よくこみ合い・・・ 宮本百合子 「九州の東海岸」
・・・等が晦渋に呈出されつつある一方で、万歳と漫談、とりとめなくエロティックな流行歌とが異常な流行を見た時であった。文学における「嗚呼いやなことだ」と一味通じて更にそれを、封建時代の日本ユーモア文学の特徴である我から我頭を叩いて人々の笑いものとす・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・時代の自然主義的手法の晦渋さ、その反撥として以後の諸作を貫いていたやや浮き上った平易さへの努力の跡を揚棄している。作者のレーニン的世界観の統一、政治的鍛練によって、自らそなわって来た独特の簡明さ、迫真力、革命的気宇の大さが、作品の深い光沢と・・・ 宮本百合子 「同志小林の業績の評価に寄せて」
出典:青空文庫