・・・というのを見ると風邪でもひいているのでしょう、のどを白い布でまき、縞の着物を着た半白の五十越したおばさんが、蒼白いけれどそれは晴れやかな若々しい様子で隣の、これもなかなかしゃんとした小母さんと話しています。やや乱れかかった白髪と、確かり大き・・・ 宮本百合子 「共産党公判を傍聴して」
・・・ここにも晴れやかな拡張だ。今に、ソヴェト同盟勤労者は、労働組合の手帳を見せて買う半額切符で楽しく映画を八万七百ヵ所で見ることが出来るのだ。 文化基礎が大衆的に、こう拡大してこそ、初めて輝しいプロレタリア芸術が花咲くのだ。 ソヴェト同・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・二日には、あなたがそれまで二度お目にかかっていた時よりずっと馴れて、顔つきにも体つきにもあなたらしい流動性が出ていて、大変うれしく、本当にうれしかった。晴れやかな心持でかえりにいねちゃんのところへよったら、やっぱりよかったねとよろこんで、鶴・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・男の子との自然で暢び暢びした交渉が行われれば晴れやかに放散される筈の感情が、周囲の事情によって我知らず偽善的に鬱屈して妙に同性愛的傾向をとるのであろう。或る場合、この心理的動機は当事者である娘たちに自覚されていないことが多いのである。・・・ 宮本百合子 「昨今の話題を」
・・・窓が晴れやかに開いて、その窓際に台があって、薄い色の髪の毛がすきとおるような工合に光線を受け一人の背広をきた中老人がハムを刻んでいる。わきに小鍋と玉子が二つころがっていた。 むき出しの頑丈そうな腕を大きい胸の上に組んで、白い布をかぶった・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・二本の燭はこれも一隅が映っている白い包みを左右から護って、枯れた辛夷の梢越しに、晴れやかに碧い大空でゆらめいているように見えた。〔一九二五年三月〕 宮本百合子 「祖母のために」
・・・重吉に面会する数分の間、本当にその間だけひろ子は晴れやかになって笑えた。重吉も晴々して喋るひろ子を見て、愉快になった。だが巣鴨を出ると、よってゆけるような友達の家は遠すぎたりして、行雄のところへ行き、自分の内面とかかわりようもない声と動きに・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ しかもブルジョア社会文化は、いかに表面を種々様々の花束・手套・行儀作法でとりかざろうとも、本質において男尊女卑であり、婦人の性はその特殊性をも十分晴れやかにのばし得る形態において同位ではない。それ故進歩的思索を可能とする婦人は、先ず家・・・ 宮本百合子 「婦人作家は何故道徳家か? そして何故男の美が描けぬか?」
・・・その額は晴れやかで目にはかすかなかがやきがある。 庄兵衛はまともには見ていぬが、始終喜助の顔から目を離さずにいる。そして不思議だ、不思議だと、心の内で繰り返している。それは喜助の顔が縦から見ても、横から見ても、いかにも楽しそうで、もし役・・・ 森鴎外 「高瀬舟」
出典:青空文庫