〔冒頭原稿数枚なし〕「ふん。こいつらがざわざわざわざわ云っていたのは、ほんの昨日のようだったがなあ。大抵雪に潰されてしまったんだな。」 それから若い木霊は、明るい枯草の丘の間を歩いて行きました。 丘の窪みや皺に、・・・ 宮沢賢治 「若い木霊」
・・・少し出て来た風にその薄のような草のすきとおった白い穂がざわめく間を、エンジンの響を晴れた大空のどこかへ微かに谺させつつ自動車は一層速力を出して単調な一本道を行く。 ショウモンの大砲台の内部は見物出来るようになっていた。一行が降り立ったら・・・ 宮本百合子 「女靴の跡」
・・・学の世界の現実として民衆の日常生活、心理、歴史への関り方を再現してゆくべきであるという自然な解釈からは脱れて、主として知識人の知性、批判力への否定のてだてとして出発して来たことは、あれほど到るところに谺していたヒューマニズムの響きの来し方と・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・学者らしく又先生らしい心持の勘には、今日のジャーナリズムの相当荒っぽい物音がそのまま疑問もなく谺することは無さそうに思える。著者にとりてこれは不幸な偶然であるのかもしれないけれども、第三者の心には、今日の日本の文化の肌理はこうなって来ている・・・ 宮本百合子 「生態の流行」
出典:青空文庫