・・・そこで未決檻に入れられてから、女房は監獄長や、判事や、警察医や、僧侶に、繰り返して、切に頼み込んで、これまで夫としていた男に衝き合せずに置いて貰う事にした。そればかりではない。その男の面会に来ぬようにして貰った。それから色々な秘密らしい口供・・・ 著:オイレンベルクヘルベルト 訳:森鴎外 「女の決闘」
・・・これぞ、実に一個未決の問題である、とわたくしは思う。 故に、今のわたくしに、恥ずべく、忌むべく、おそるべきものがあるとすれば、それは、死刑に処せられるということではなくて、わたくしが悪人であり、罪人であるということにあらねばならぬ。これ・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・以来の厳密なる統計を持して、死刑は常に恥辱・罪悪に伴えりと断言し得るであろう歟、否な、死刑の意味せる恥辱・罪悪は、その有せる光栄若くば冤枉よりも多しちょうことすらも、断言し得るであろう歟、是れ実に一個未決の問題であると私は思う。 故に今・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・兄や叔父の入った未決檻の方へもよく引擦って行った足だ。歩いて歩いて、終にはどうにもこうにも前へ出なく成って了った足だ。日の映った寝床の上に器械のように投出して、生きる望みもなく震えていた足だ…… その足で、比佐は漸くこの仙台へ辿り着いた・・・ 島崎藤村 「足袋」
・・・そこで未決檻に入れられてから、女房は監獄長や、判事や、警察医や僧侶に、繰り返して、切に頼み込んで、これまで夫としていた男に衝き合せずに置いて貰う事にした。そればかりでは無い。その男の面会に来ぬようにして貰った。それから色色な秘密らしい口供を・・・ 太宰治 「女の決闘」
・・・その道具の使い方がどこまで成効しているかはおそらく未決の問題ではあるまいか。それを決定するのは専門家の仕事である、そしてそれは必ずしも第二のアインシュタインを要しない仕事である。しかし一人のアインシュタインを必要とした仕事の中核真髄は、この・・・ 寺田寅彦 「相対性原理側面観」
・・・を宮本が生きて、これから先何年もそこですごさなければならない見当さえつかない未決にまわった記念のために、ちゃんとした小説に書き上げたいと思う熱意があった。そのために一ヵ月余、継続的に仕事をした。ある部分は数度かき直された。そして「乳房」と題・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・前年五月中旬検挙された百合子は、十月下旬治安維持法によって起訴され、市ヶ谷刑務所未決に収容された。一九三六年一月三十日、父中條精一郎が死去した。百合子は五日間仮出獄した。ふたたび市ヶ谷にかえり予審中、二・二六事件が起った。三月下旬、保釈とな・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・そして一九三三年十二月、スパイの手引によって検挙され、一ヵ年間留置場生活を経て、未決におくられた。往復書簡は自然、その一年間の出来事にもふれているので、「十二年の手紙」とされている。 一九五〇年六月五日〔一九五〇年六月〕・・・ 宮本百合子 「はしがき(『十二年の手紙』その一)」
・・・それからまた不敬罪によって三年間未決にいたときに終戦となりました。その後、故郷の新潟県関山でもと陸軍の演習地であった四十町歩の土地の開墾をはじめ、製粉、製塩事業の関山農場をやっているのだそうです。四十町歩の陸軍演習地を海軍のなかでも、特別な・・・ 宮本百合子 「ファシズムは生きている」
出典:青空文庫