・・・沢山ある髪を結綿に結っていた、角絞りの鹿の子の切、浅葱と赤と二筋を花がけにしてこれが昼過ぎに出来たので、衣服は薄お納戸の棒縞糸織の袷、薄紫の裾廻し、唐繻子の襟を掛て、赤地に白菊の半襟、緋鹿の子の腰巻、朱鷺色の扱帯をきりきりと巻いて、萌黄繻子・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・ 既にして、朱鷺色の布一重である。 私も脱いだ。汗は垂々と落ちた。が、憚りながら褌は白い。一輪の桔梗の紫の影に映えて、女はうるおえる玉のようであった。 その手が糸を曳いて、針をあやつったのである。 縫えると、帯をしめると、私・・・ 泉鏡花 「二、三羽――十二、三羽」
・・・ その長襦袢で……明保野で寝たのであるが、朱鷺色の薄いのに雪輪を白く抜いた友染である。径に、ちらちらと、この友染が、小提灯で、川風が水に添い、野茨、卯の花。且つちり乱るる、山裾の草にほのめいた時は、向瀬の流れも、低い磧の撫子を越して、駒・・・ 泉鏡花 「古狢」
・・・ 黒小袖の肩を円く、但し引緊めるばかり両袖で胸を抱いた、真白な襟を長く、のめるように俯向いて、今時は珍らしい、朱鷺色の角隠に花笄、櫛ばかりでも頭は重そう。ちらりと紅の透る、白襟を襲ねた端に、一筋キラキラと時計の黄金鎖が輝いた。 上が・・・ 泉鏡花 「露肆」
・・・……湯気に山茶花の悄れたかと思う、濡れたように、しっとりと身についた藍鼠の縞小紋に、朱鷺色と白のいち松のくっきりした伊達巻で乳の下の縊れるばかり、消えそうな弱腰に、裾模様が軽く靡いて、片膝をやや浮かした、褄を友染がほんのり溢れる。露の垂りそ・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・ やがて、朱鷺色の手巾で口を蔽うて、肩で呼吸して、向直って、ツンと澄して横顔で歩行こうとした。が、何と、自から目がこっちに向くではないか。二つ三つ手巾に、すぶりをくれて、たたきつけて、また笑った。「おほほほほ、あははは、あははははは・・・ 泉鏡花 「みさごの鮨」
出典:青空文庫