・・・そうしてそれが、やがて大隅君のあの鬱然たる風格の要因にさえなった様子であったが、思いやりの深い山田勇吉君は、或る時、見かねて、松葉を束にしてそれでもって禿げた部分をつついて刺戟すると毛髪が再生して来るそうです、と真顔で進言して、かえって大隅・・・ 太宰治 「佳日」
・・・からだが松葉で一面に痛がゆくなる。『芸術博士』に応募して落ちた時など帯を首にまきつけました。ドストエフスキイ流行直前、彼にこって、タッチイを臭い文学理論でなやまし、そのほかの友人すべてをもひんしゅくさせたことと思います。兄の新妻の弟、山口定・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・という言葉が六回、「松葉」が一つ、「葉」が七、「露」が九、「雨」が三、「玉」が六、「こぼれ」という三字が五回、「落ち」「落つ」が合わせて三、「おく」が七、「枝」が四回繰り返されている。これをかなの数にして合計すると百十字で、全体三百十字の三・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・其ノ後慶応年間ニ至ツテ、松葉屋某ナル者魁主トナリ、遂ニ旧府ノ許可ヲ禀クルヤ、同志厠与ニ助ケテ以テ稍ク二三ノ楼ヲ営ム。其ノ創立ノ妓楼トイフモノハ則曰ク松葉屋、曰ク大黒屋、曰ク小川屋曰ク吉田屋曰ク金邑屋此ノ他局店ハ曰ク三福長屋、曰ク恵比寿長屋等・・・ 永井荷風 「上野」
・・・ その山の茶屋では、志賀高原の松の翠からこしらえた松葉茶を売っている。はじめて登って来た日に、私はそれをすこし買って、山口にいる良人のお父さんのところへ送った。ふと自分の父にも買ってやったらと思い、もういないのだと思ったら、胸のところが・・・ 宮本百合子 「上林からの手紙」
・・・ この間島田へ上林からお送りしたのは松葉の茶です。今度は少し沢山、野原の方と両方へお送りいたしました。いつぞやお話のあった毛布ね。あれはことしのお歳暮にさし上げましょう。私も少しは稿料も入るし。「阿Q正伝」の作者魯迅が没しました。写真の・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・建物と建物とを繋いだ直線の快適な落付きと、松葉の薫がいつとはなししみこんだような木地のままの太い木材から来る感銘とが、与って力あるのだ。 黄檗の建物としてはどちらが純正なものなのか。或は唯造営者の気稟の相異だけでこうも違うのか。私共は解・・・ 宮本百合子 「長崎の印象」
出典:青空文庫