・・・例えば雑誌の編輯でも校正の最後の日は徹夜さえするでしょう。男の人と全く同じような働き方だと思います。それが、女であるだけ疲れかたが違ったところにあり、働いている間身装りにしろ男の人の方が働き易い自由さを持っていると思う。和服の帯付きで働いて・・・ 宮本百合子 「女性の生活態度」
・・・のなかに、キドウセイを軌道性と誤記した筆記のあやまちが、そのまま校正からもれていたことは、平野氏の話を一層おかしなものにした。わたしのあの話の十一頁十二頁とよめば、キドウ性は機動性であることが察しられないことはないと思う。少くとも、これは変・・・ 宮本百合子 「孫悟空の雲」
・・・ 一九五〇年〔渡辺泰輔宛〕 校正をおかえしいたします。 直したという以上にたくさんのところを削り、まことに御迷惑をかけました。 辞典類をかきなれないものですから、よみかえしてみると、これ一つで一つの文学史になってしま・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・明方まで仕事をつづけて「少しく運動の必要を感じ、書いた原稿を手にして自分で印刷屋へ足を運び、校正の仕事に携った。それも彼が常に八回乃至十回の校正を必要としたからである。」バルザックは自分の文章に自信がなかったばかりでなく、「彼は最初ただ小説・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 貧しいこの大学生はカザンの新聞社へ夜間校正係として働き、一晩十一カペイキずつ稼いで来た。ゴーリキイに稼ぎのなかった日、この心を痛ましめる睦しい同居者たちは四切のパンと二カペイキの茶、三カペイキの砂糖だけで一日を凌ぐことも珍しくない。ゴ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・貧しいこの大学生はカザンの新聞社へ夜間校正係として働き、一晩十一カペイキずつ稼いで来た。ゴーリキイに稼ぎがなかった日は、この心を痛ましめる睦しい同居者たちは四片のパンと二カペイキの茶、三カペイキの砂糖だけで一日を凌ぐことも珍しくない。ゴーリ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
・・・色鉛筆を片手に、無駄と思うところ数行ぐるりとしるしをつけ、校正のようにトルと記入し、よいと思うところには傍線を附す。至極深刻な表情を保って居る。 修善寺より乗合自働車。女の客引が客を奪い合う様子、昔の宿場よろしくの光景なり。然し、どれも・・・ 宮本百合子 「湯ヶ島の数日」
・・・この注意を受けたのは、まだ本文を校正していた時であったから、どこかへギョオテの名を入れて入れられないこともなかった。しかし私は考えた。諺に大師は弘法に奪われたとか云うようなわけで、ファウストと云えばギョオテのファウストとなっているから、こと・・・ 森鴎外 「訳本ファウストについて」
・・・此頃は談話の校正をさせて貰う約束をしても、ほとんど全くその約束が履行せられないことになって来ました。話には順序や語気があって、それで意味が変って来ます。先ず此頃談話して公にせられるものは、多くは本人の考とは違うものだと承知していた方が確なよ・・・ 森鴎外 「Resignation の説」
・・・網目版の校正にそれほど念を入れていたのである。それだけに出来ばえはすばらしくよいように思われる。ここに集められた能面は実物を自由に見ることのできないものであるが、写真版として我々の前に置かれて見ると、我々はともどもにその美しさや様式について・・・ 和辻哲郎 「能面の様式」
出典:青空文庫