・・・どうも気分がよくないから、検温器を入れて見ると、熱が八度ばかりある。そこで枕を氷枕に換えて、上からもう一つ氷嚢をぶら下げさせた。 すると二時頃になって、藤岡蔵六が遊びに来た。到底起きる気がしないから、横になったまま、いろいろ話していると・・・ 芥川竜之介 「田端日記」
・・・枕元には薬罎や検温器と一しょに、小さな朝顔の鉢があって、しおらしい瑠璃色の花が咲いていますから、大方まだ朝の内なのでしょう。雨、雷鳴、お島婆さん、お敏、――そんな記憶をぼんやり辿りながら、新蔵はふと眼を傍へ転ずると、思いがけなくそこの葭戸際・・・ 芥川竜之介 「妖婆」
・・・ 連れて来た赤坊たちは、まず第一の室ですっかり着ているものをぬがされ、互にまだ性別のない体をあどけなく眺めあいながら、体重を計られ、検温され、やがてすっかり托児所そなえつけの衣服をきせられる。 赤坊たちは、未来の闘士も婦人技術家もズ・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・そのプログラムには、夜十時就寝、一日三回の検温、正しい食事、毎日午前中に巣鴨拘置所へ面会にくること、などが含まれていた。これを三ヵ月ほど実行している中に、微熱は出なくなった。十二月に盲腸炎を起し、慶大病院で手術した。一九三九年・・・ 宮本百合子 「年譜」
出典:青空文庫