・・・でも、私はあの山の上から東京へ出て来て見るたびに、とにもかくにも出版業者がそれぞれの店を構え、店員を使って、相応な生計を営んで行くのにその原料を提供する著作者が――少数の例外はあるにもせよ――食うや食わずにいる法はないと考えた。私が全くの著・・・ 島崎藤村 「分配」
・・・宿の主人は潜水業者であったが、ある日潜水から上がると身体中が痺れて動けなくなったので、それを治すためにもう一遍潜水服を着せて海へ沈めたりしたが、とうとうそれっきりになってしまった。自分等は離屋にいたのでその騒ぎを翌日まで知らなかった。その二・・・ 寺田寅彦 「海水浴」
・・・ わが国の教育家、画家、詩人ならびに出版業者が、ともかくもこの粗末な絵本を参考のために一見して、そうしてわが国児童のために、ほんの些細の労力を貢献して、若干の火事教育の絵本を提供されることを切望する次第である。そうすればこの赤露の絵・・・ 寺田寅彦 「火事教育」
・・・がその個人的に出来上った芸術家でも、彼ら同業者の利益を団体として保護するためには、会なり倶楽部なり、組合なりを組織して、規則その他の束縛を受ける必要ができてくる。彼らの或者は今現にこれを実行しつつある。してみれば放縦不羈を生命とする芸術家で・・・ 夏目漱石 「中味と形式」
・・・その当時君は文学者をもって自ら任じていないなどとは夢にも知らなかったので、同業者同社員たる余の言葉が、少しは君に慰藉を与えはしまいかという己惚があったんだが、文士たる事を恥ずという君の立場を考えて見ると、これは実際入らざる差し出た所為であっ・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・ それ故西洋諸国の出版業者が、著者に対する尊敬と読者に対する愛敬とからして、やや高尚なる文学書類を多くパンフレツトで出版するのは、さもあるべき筈のことではないか。この仕方で出版された書物は、その特種なる国民的趣味を代表する表紙の一色によ・・・ 萩原朔太郎 「装幀の意義」
・・・ 各国の有業者の人口に対する比率で見ると、婦人有業者の第一位を占めるのはフランスであり、次がドイツ、続いて日本の順である。男の有業者との割合では、男五九・一に対する女三一・九で、婦人の働きての数の多いことでは日本がほとんど世界第一位を占・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・民間のいろいろの業者・経営者にとって、月給はともかく現金では半額だけ手わたせばいいということは、不便な方法ではなかろう。悪質の支払主は、そこに相当の才覚と無恥とをくりひろげることは火を見るよりも明らかなのだから。そうしたら、うちはどうしてや・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
・・・従って、儲けるための出版業者は、いつも「地方」を対象におき、そこで売れるためには、決して「地方的水準」を高めようとせず、それに媚び、おもねり、面白がられることを商売の上手とした。「地方巡り」という一つの文化上のタイプは出版から、娯楽から・・・ 宮本百合子 「木の芽だち」
・・・芸術的良心を痲痺させてしまって出版業者に動員されて、てんから恥ない所がありはすまいか、出版当事者美術家ともに大いに良心を覚醒させる要があろう。 次にさしずめ世界文化年表とでも称する年表が欲しい。広い文化の分野でせまい分科的にではあるかも・・・ 宮本百合子 「業者と美術家の覚醒を促す」
出典:青空文庫