・・・を述べている。残存し繁栄した種族は自衛の能力あるものか、しからざれば人間の保護によるものであると付け加えている。そして半人半獣の怪物が現存し得ざるゆえんを説いているのである。 次には原始人類の生活状態から人文の発達の歴史をかなり詳しく論・・・ 寺田寅彦 「ルクレチウスと科学」
・・・私がもし古美術の研究家というような道楽をでももっていたら、煩いほど残存している寺々の建築や、そこにしまわれてある絵画や彫刻によって、どれだけ慰められ、得をしたかしれなかったが――もちろん私もそういう趣味はないことはないので、それらの宝蔵を瞥・・・ 徳田秋声 「蒼白い月」
・・・わたくしは唯墨堤の処々に今なお残存している石碑の文字を見る時鵬斎米庵らが書風の支那古今の名家に比して遜色なきが如くなるに反して、東京市中に立てる銅像の製作西洋の市街に見る彫刻に比して遥に劣れるが如き思をなすのみである。江戸旧文化の支那模倣は・・・ 永井荷風 「向嶋」
・・・ 今ソヴェト同盟で出ている、あらゆる漫画諷刺雑誌の主題は、資本主義国支配階級への攻撃、国内のブルジョア残存物への挑戦、次にプロレタリア生産、文化の自己批判が、扱われている。 然し実際にやって見ると、階級的自己批判としての諷刺文学は、・・・ 宮本百合子 「新たなプロレタリア文学」
・・・ のこっている老舗の一つが、依然として講談社であり、そのすべての講談社的特性において残存していることは、日本の現代に何を語るだろう。戦争の年々に老舗たる貫録を加え、「信ずるところあって筆を守って来た」或る種の作家のもちのよさが、こんにち・・・ 宮本百合子 「しかし昔にはかえらない」
・・・のところぐらいにしか残存していまい。正に近代の娘、妻、そして母たちは「実にその活溌な労働性の故に」夫婦愛より歴史性の古いと云われているその母性感情の故に、最も高度に錯綜した社会諸関係の辛苦にふれているという深刻な事実の裡にこそ、このバッハオ・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
・・・は常人の日暮しの中からは夙に蒸発してしまっていて、僅にその蒸溜のような性質のものが、茶会も或る意味でのコンツェルンであるブルジョアの間に、骨董屋を挾んで残存している。外国人に見せるものの中に茶の湯という項は必ずある。果してそれを今日の日本の・・・ 宮本百合子 「文学上の復古的提唱に対して」
・・・りの訪問で、驚くばかりの建設を目撃すると同時に五年前彼がレーニンの考えとは一致しない見解をプロレタリアート独裁下のインテリゲンツィアに対して抱いていたのにつけ込んで、ソヴェト同盟内の富農的ブルジョア的残存分子が、いろいろの泣きごとを彼に向っ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・その影響の下に日本人の作り出した文化産物も偶然に残存した少数の例外のほかは、実に徹底的に湮滅させられてしまった。したがってあれほど大きい、深い根をおろした文化運動も、日本の歴史では、ちょっとした挿話くらいにしか取り扱われないことになった。・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫