・・・「やあ、殴りやがったな。このままでは、すまんぞ。」と喚いたのである。こんな芝居は無い。弱い弁慶は狼狽して立ち上り、右に左に体を、かわしているうちに、とうとう待っているものが来た。主人はまっすぐに私のところへ来て、どうぞ外へ出て下さい、他・・・ 太宰治 「服装に就いて」
・・・ 二三年まえ、罪なきものを殴り、蹴ちらかして、馬の如く巷を走り狂い、いまもなお、ときたま、余燼ばくはつして、とりかえしのつかぬことをしてしまうのである。どうにでもなれと、一日一ぱいふんぞりかえって寝て居ると、わが身に、慈眼の波ただよい、言葉・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・この修行のあいだに次郎兵衛は殴りかたにもこつのあることを発見した。すなわち腕を、横から大廻しに廻して殴るよりは腋下からピストンのようにまっすぐに突きだして殴ったほうが約三倍の効果があるということであった。まっすぐに突きだす途中で腕を内側に半・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・おまけに竹刀でバシバシと、すこたんを遠慮なしに打ん殴りやがったっけ。ああなると意気地のねえもんだて、息がつけねえんだからな。フー、だが、全く暑いよ」 彼は、待合室から、駅前の広場を眺めた。 陽光がやけに鋭く、砂利を焙った。その上を自・・・ 葉山嘉樹 「乳色の靄」
・・・自然に溢れる滑稽は、眉太き青年旅行家が殴り倒され、麻雀の保護を受け、麻雀が若者に参る頃から頂上に達した。階上で怪我した若者の看病をするそのまめまめしさ、動作の日本女らしさ、澄子は気がつかず地で行っている。階下では小泥棒共が、騒ぎ立てる。麻雀・・・ 宮本百合子 「茶色っぽい町」
・・・小林多喜二という小説家は二月二十日に築地の警察で殴り殺されてしまいました。それですから今日私どもはこういう催をしても小林多喜二を忘れていません。小林多喜二があれだけの作品を書きまして、お読みになっていらっしゃる方が多いと思いますけれども、殺・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・パン焼職人の仲間たちは、大学へ学生を殴りに押しかけようとしている。「おお、分銅でやっつけるんだ!」 彼らは嬉しそうな悪意で云う。たまらなくなって、ゴーリキイは彼等と論判をはじめた。が、結局自分に学生を護り得るどんな力があるというので・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの発展の特質」
出典:青空文庫