・・・肥後国熊本の城主、細川越中守宗教を殺害した。その顛末は、こうである。 ――――――――――――――――――――――――― 細川家は、諸侯の中でも、すぐれて、武備に富んだ大名である。元姫君と云われた宗教の内室さえ、・・・ 芥川竜之介 「忠義」
・・・で情夫の石田吉蔵を殺害して、その肉体の一部を斬り取って逃亡したという稀代の妖婦の情痴事件が世をさわがせたのは、たしか昭和十一年五月であったが、丁度その頃私はカフェ美人座の照井静子という女に、二十四歳の年少多感の胸を焦がしていた。 美人座・・・ 織田作之助 「世相」
・・・「国主の御用ひなき法師なれば、あやまちたりとも科あらじとや思ひけん、念仏者並びに檀那等、又さるべき人々も同意したりとぞ聞えし、夜中に日蓮が小庵に数千人押し寄せて、殺害せんとせしかども、いかんがしたりけん、其夜の害も免れぬ。」 このさ・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・×日正午すぎ×区×町×番地×商、何某さんは自宅六畳間で次男何某君の頭を薪割で一撃して殺害、自分はハサミで喉を突いたが死に切れず附近の医院に収容したが危篤、同家では最近二女某さんに養子を迎えたが、次男が唖の上に少し頭が悪いので娘可愛さから思い・・・ 太宰治 「桜桃」
・・・二度目の殺人など、洗面場で手を洗ってその手をふくハンケチの中からピストルの弾を乱発させるという卑怯千万な行為であるにかかわらず、観客の頭にはあらかじめ被殺害者に対する憎悪という魔薬が注射されているから、かえって一種の痛快な感じをいだかせ、こ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(4[#「4」はローマ数字、1-13-24])」
・・・そのうちで、戦闘員だったものは千五百万人、最低その三倍の非戦闘員が、空襲とナチスやファシストの強制収容所、地下の抗戦運動で殺害されている。日本の軍部は、太平洋戦争で百八十五万人を死なせた。全国には百八十万人の未亡人が飢餓線に生きている。千円・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・佐橋甚五郎が小姓だったとき同じ小姓の蜂谷を殺害したそのいきさつも、その償として甲斐の甘利の寝首を掻いた前後のいきさつも、主人である家康の命には決してそむいていないのだが、やりかたに何とも云えぬ冷酷鋭利なところがあって、家康は手放しては使いた・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・の母権顛覆が起ったのは、バッハオーフェンがエスキュロスの悲劇の章句によって説明したように女神アテネが良人アガメムノンと良人の父とを殺害した母親クリテムネストラを殺して復讐した息子オレステスを無罪にしたことから由来しているというよりは、人間の・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
・・・ 侍が親を殺害せられた場合には、敵討をしなくてはならない。ましてや三右衛門が遺族に取っては、その敵討が故人の遺言になっている。そこで親族打ち寄って、度々評議を凝らした末、翌天保五年甲午の歳の正月中旬に、表向敵討の願をした。 評議・・・ 森鴎外 「護持院原の敵討」
出典:青空文庫