・・・ お蓮は彼を送り出すと、ほとんど毎夜の事ながら、気疲れを感ぜずにはいられなかった。と同時にまた独りになった事が、多少は寂しくも思われるのだった。 雨が降っても、風が吹いても、川一つ隔てた藪や林は、心細い響を立て易かった。お蓮は酒臭い・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・とらわれのわれをよぶ 気疲れがひどいと、さまざまな歌声がきこえるものだ。私は梢にまで達した。梢の枯枝を二三度ばさばさゆすぶってみた。いのちともしきわれをよぶ 足だまりにしていた枯枝がぽきっと折れた。不・・・ 太宰治 「猿ヶ島」
・・・内地では、二、三時間汽車に乗っても、大旅行の感じでとても気疲れがするのだが、外地では十時間二十時間の汽車旅行なんて、まるで隣村へ行くくらいの気軽なものなのだからね。内地の生活の密度が濃いとでもいうのか、または、その密度の濃い生活とぴったり噛・・・ 太宰治 「雀」
出典:青空文庫