-
・・・ 先ず堅い高足駄をはいて泥田の中をこね歩かなければならない事、それから空風と戦い砂塵に悩まされなければならない事、このような天然の道具立にかてて加えて、文明の産み出したこの満員電車に割り込んで踏まれ押され罵られなければならない事、ただこ・・・
寺田寅彦
「電車と風呂」
-
・・・そうして目的地に着いて見ると、すぐ前に止まっている第一電車は相変わらず満員で、その中から人と人とを押し分けて、泥田を泳ぐようにしてやっと下車する人たちとほとんど同時に街上の土を踏むような事も珍しくはない。 私はいつもこうした混雑の週期的・・・
寺田寅彦
「電車の混雑について」