・・・この前お父さんが持ってきて学校へ寄贈した巨きな蟹の甲らだのとなかいの角だの今だってみんな標本室にあるんだ。六年生なんか授業のとき先生がかわるがわる教室へ持って行くよ。一昨年修学旅行で〔以下数文字分空白〕「お父さんはこの次はおまえにラッコ・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ 十八等官でしたから役所のなかでも、ずうっと下の方でしたし俸給もほんのわずかでしたが、受持ちが標本の採集や整理で生れ付き好きなことでしたから、わたくしは毎日ずいぶん愉快にはたらきました。殊にそのころ、モリーオ市では競馬場を植物園に拵え直・・・ 宮沢賢治 「ポラーノの広場」
・・・がっしりとした門にソヴェト同盟の国標、鎚と鎌をぶっちがえにしたものを麦束でとりかこんだ標がかかげてあり、その上に、ドン国立煙草工場と金字で書いてある。門衛がいるが、一向意地わるそうでもないし、うたぐり深い目つきもしていない。「受付はどこ・・・ 宮本百合子 「明るい工場」
・・・という感想を沁々と面に浮べていろんなひとたちが見て通った。すると、その横の入口へ一台自動車がすーと止って、なかから一人のお爺さんが背中をかがめてでて来た。その自動車のフロント硝子には「自」という標が貼られてある。自家用自動車は、特殊会社のほ・・・ 宮本百合子 「新しい美をつくる心」
・・・ 女生徒たちは、自分達の教室や校庭を、軍隊に荒らされることは辛く思いながら辛棒していたのに、乱暴にも学生にとって誇りと愛とのしるしである校標を溝へ投げこまれたことについて深い憤りを感じた。みんなの心がそのことを腹立たしく思う気持で結・・・ 宮本百合子 「結集」
・・・悲しみを常に新たにされるというばかりでなく、ああいう標は、いろんないかさま師に何か思いつかせるきっかけになるのではないかと、その家に残っている女の人々の日常の感じが思いやられる。 好学心 三月が近づいて来る。試・・・ 宮本百合子 「今日の耳目」
・・・ そうすると、 第一は、思い切り保守的な、宗教的な婦人と、 進取的な、努力的な、従って標準より、より知的であると倶に芸術的である婦人。 第三は、良人から与えられる金を当然の権利として、彼女の意のままに消費する群、つまり流行の・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 内側の並木道と外側の並木道と二かわの古い菩提樹並木が市街をとりまき、鉱夫の帽子についている照明燈みたいな※と円い標を屋根につけた電車が、冬は真白く氷花に覆われた並木道に青いスパークを散らしながら走る。 夕方、五時というと冬のモスク・・・ 宮本百合子 「砂遊場からの同志」
・・・そのほかはすべて雨ざらしで鳥や獣に食われるのだろう、手や足がちぎれていたり、また記標に取られたか、首さえもないのが多い。本当にこれらの人々にもなつかしい親もあろう、可愛らしい妻子もあろう、親しい交わりの友もあろう、身を任せた主君もあろう、そ・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・が大きい仕事の標徴であるかのごとくに考えている。そこに不正と虚偽がある。この点についてはおそらく真に真理のために努力する学者たちは先生の態度を是認しないでいられないだろう。六 徳義的脊骨のあるものには四周からうるさい事、苦し・・・ 和辻哲郎 「夏目先生の追憶」
出典:青空文庫