・・・鯉も鮒も、一処へ固まって、泡を立てて弱るので、台所の大桶へ汲み込んだ井戸の水を、はるばるとこの洗面所へ送って、橋がかりの下を潜らして、池へ流し込むのだそうであった。 木曾道中の新版を二三種ばかり、枕もとに散らした炬燵へ、ずぶずぶと潜って・・・ 泉鏡花 「眉かくしの霊」
・・・ただ白湯を打かけてザクザク流し込むのだが、それが如何にも美味そうであった。 お源は亭主のこの所為に気を呑れて黙って見ていたが山盛五六杯食って、未だ止めそうもないので呆れもし、可笑くもなり「お前さんそんなにお腹が空いたの」 磯は更・・・ 国木田独歩 「竹の木戸」
・・・ 水の中に濃硫酸をいれるのに、極めて徐々に少しずつ滴下していれば酸は徐々に自然に水中に混合して大して間違いは起らないが、いきなり多量に流し込むと非常な熱を発生して罎が破れたり、火傷したりする危険が発生する。 汽車や飛行機や電話や無線・・・ 寺田寅彦 「猫の穴掘り」
・・・屈折の少ない、しかし濃淡の細やかなそのメロディーは、最初の独唱によってまた身震いを感じないでいられなかった我々の祖先の心を、大きい融け合った響きの海の内に流し込む。苦しいほどの緊張は快い静かな歓喜に返って行き、心臓の鼓動はまたゆるやかに低い・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
出典:青空文庫